2011年11月13日日曜日

#60 TPPと「歴史は繰り返す」の例ーーいつも日本が崩壊すると反対

友達のジョーク、「あれなあ、農業の自由化で騒いでいる問題、ピーピーピーと聞えてオレのピーピーの小遣いを突かれているようや。オレはよう分からんわ」。
 別の教養人タイプの友達が言う。「少しは理解していると思うが、世間は無関心やで。農協と反対政治家が世間の上空でやっている空中戦みたいなものやな」。
 彼らが言っていることはTPPのことで、太平洋を取り巻くアジア諸国ほかとの貿易自由化交渉のことです。交渉参加国は、アメリカ、ベトナム、ブルネイ、マレーシア、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド、ペルー、チリの9ヶ国です。シンガポールとブルネイを除いて農業品に競争力があると言われます。
 いろいろ意見が分かれていますが、日本がこの協定に参加すれば、農業が大きく変わり、私は若者諸君にはチャンスが増えると見ています。

◇ TPPをめぐるおかしな意見とその背景 
 党内でも反対者が多い中、野田首相は11日にTPP交渉の協議に参加することを表明した。 
 記憶にたどって顧みると、日本の産業史において大きな貿易交渉は3度目のことだ。後で詳しく述べるが、最初は1960年に始まった工業製品の自由化の貿易交渉だ。2度目は1986年からのサービス貿易と農業の自由化の交渉でウルグアイラウンドと呼ばれた。いずれも野党と産業界の大反対の中で自民党政府が交渉に決断した。決着を見るまでに前者では4年、後者では7年かかった。
 議論がある程度なされたら、首相が決断することは当然のことであり、必ずしも多数意見によらず社長が独自の決断をすることは珍しくない。いつまでも議論をしていることは許されない。
 いくつか反対意見を挙げて論理のおかしいことを指摘してみよう。
 「バスに乗ってしまったら降りられない」
 一旦交渉に入るともう交渉から抜けられないと言うのだ。まして今は交渉に入る前に各国との協議を始めた段階。協定合意に至るまでの個別課題にあまりに日本に不利であれば、途中でさえ交渉から降りることはできる。交渉事とはそういうものだ。
 「説明不足であり、政府はもっと説明責任をはたすべき」
 すでに一年も議論されてきて、メディアでも報道されてきた。説明責任という言葉は政府追及の常用語になっていて、他の政治課題に対してもよく使われる。今はまだ交渉の協議にやっと入った段階であるから、得られる情報には限界がある。
 「TTP協定に関して世論を問え」
 私は仕事柄大衆の平均よりは強い関心を持ち、広く情報を集めている。それでも今協定に締結するかどうか問われれば答を出すのに躊躇する。他の交渉参加国はこれまで9回も協議を重ねてきたことに比べれば、政府が持つ情報には精度を欠くかもしれない。農業や保険・医療の自由化など日本に大きく不利益なことを要求されれば、個々の案件について民意を問うことがよいだろう。

◇ 工業製品の自由化とコマツ 
 工業製品の自由化について特に日米政府の間で1960年には交渉が始まっていた。その後94%の自由化、つまり両国で関税が撤廃された。
 当時の野党、労組、大衆にいたるまで自由化に反対した状況は今のTTP参加に反対するのと酷似している。「日本の産業が崩壊する」と言われたことが、今は「日本の農業が崩壊する」と言われる。当時産業界が今の農業自由化と同じくらい時期尚早という意見で大反対した。それを敢えて自民党政府は自由化を決断した。日本にとっても国際競争力を高めるのにメリットがあったからだ。
 この自由化を見越して、世界の建設機械の巨人キャタピラーが日本に進出した。63年に当時の新三菱重工と合弁で新キャタピラー三菱を設立したのだ。
 当時、日本企業の富山工場で駆け出しの技術者だった私は、小松製作所(現在、コマツ)の粟津工場など主力工場では強力な改革運動が進められていたことを思い出す。彼らの努力が実り、その後国内市場だけではなく、海外でも競争力を高めた結果、今日海外では巨人キャタピラーを凌ぐ建設機械メーカーになった。
 コマツに限らない。他の日本メーカーも自由化を梃にすることによって経営の構造改革を行ったのだ。

◇ ウルグアイ・ラウンド協定とその後の日本農業 
 同協定は1986年から始まったサービス貿易と農業自由化に関する通商交渉のことで、決着したのは93年だった。コメの自由化については、今と同じように農業団体と農家を票田にする国会議員の大反対があり、決起集会やデモが激しく行われた。結局、コメの輸入を国内消費量の4%まで認めることで、日本新党の細川政権が決断した。91年にアメリカ産のオレンジが自由化されたが、嗜好の違いから大騒ぎした割には輸入量が伸びなかった。
 滞米中の当時、私は日本の甘い、そして皮がすぐむける日本産みかんがアメリカになかったのでカナダで買ったことがある。当時、アメリカ政府がオレンジの自由化を日本政府に要求する一方、日本みかんの輸入を禁止していた。

◇ TPPを先延ばしにしてどうするのか?
 若者諸君に考えてもらうネタを提供してみよう。
 1)日本の農業と農協の改革は進むのか?
 2)農業族議員の選挙対策に国益が損なわれていないか?
 3)他の参加国は日本の参加をどう考えているのか?
                      (完)


Back to TOP  

0 コメント:

編集

Back to TOP