2016年3月24日木曜日

#156 中国たより――「焔の中」

 

今月、テレビ番組に出演した在日中国人のビジネスマンが、「日本のメディアでは30~40年もの間、中国が崩壊すると言っている。しかし、中国は崩壊しない」と発言していました。やはり不快感と母国愛が論理思考に影響していると思います。私も中国崩壊論に加担している一人です。
 私が中国政府を批判する原点は、中国の憲法でも、国旗に星が書かれているように労働者と農民を重視する政策が置き去りにされ、建国の精神が忘れられていることです。先日の全人代では習首席がマルクス主義に触れました。どこにマルクス主義があるのか?
 穏健なI氏が普通の中国の現地情報を知らせてくれます。
 私はメディアに悪乗りしているようで、中国論から身を退くことにしました。       
     
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      「中国たより」――「焔の中」   

         (前段略)

 大阪で長年続いている研究会で、毎年この時期に「中国この一年」という定点観測のようなお話しをさせてもらっています。とても熱心な常連の皆さんから、継続したテーマでの質問を受けたりしますので、報告内容や資料の準備を真面目にしています。
 「言うほど悪くない実態経済」、「景気よりも腐敗撲滅」、「解放軍史上で最大の組織改革」、「集団指導制から個人『核心』化傾向」などについて、歴史的な考察と直近の動きに基づいた卑見をお伝えしました。
 もう一つの会合は、越境電子取引についての報告会でした。喧伝されるわりに実態が分かりにくい「個人購買者による輸入」について実地調査に基づく報告書は労作でありました。最後に質問をして「日本人はルールがあいまいなので躊躇するが、中国人はルールが整備されれば商売の旨みがなくなると考える」、「投資促進には繋がらないと思うが、先ず実態を調査した」という本音を聴かせて貰ったことが収穫でした。
 北京と天津では監査役監査の前後に複数の金融関係や製造業の皆さん方の貴重な時間を頂いて「辺喫辺談」(食べながらお話しする)が出来ました。上海と同じ話題でも北方では異なる見方があるのを知ることができます。新聞記事に登場する要路の人の友達とか知人である皆さんのコメントはいつも斬新です。「言うほど悪くない実態経済」については裏付けを再確認できました。ただ「言うほど」の「言う」は誰が「言って」いるのか?の検証は大切であります。北京のある公開の場で「悲観的な報道に偏り過ぎではないか」という苦言に対して、「北京の空気がきれいでは新聞記事にならない。空気が汚い時にこそ読者の関心が高まる」という喩えで答えたと教えてもらいました。(未確認情報ではありますが、実際の喩えはもっと格調の高くないものだったようです) ・・・業種や地域により全く違う姿を見せるのが中国経済の現状だ。
 その点を踏まえると最も危険なのは、悲観論一色、あるいは楽観論一色で中国ビジネスに  望むことだろう。・・・日本企業にとっては、自社で取れるリスクの大きさを見極めながら  果実をもぎ取るための戦略と戦術の精度を磨くしかない。(日本経済新聞・上海/小高記者)
 今年になって印象に残った記事からの抜粋です。昨年上海に着任されたばかり、清新な印象を与える若手記者の文章です。
 春節以降、PM2.5が20~30という清新な空気でしたが、人も車も工場も動き始めて,風向きも変わってきた3月2日の早暁に北京空港に向かいました。空港高速に入ったところで事故渋滞6㎞の表示、タクシー運転手と相談して第二空港高速道路への迂回を選択。距離が伸びて料金加算、時間は短縮、渋滞による空気汚染回避という「三方よし」で間に合いました。席が混んでいないとのことで、隣の空いた最後列窓側に変更して貰いました。
 壁を背中にして全体を見渡せる席を選ぶスナイパー『ゴルゴ13』に因んで、勝手に「ゴルゴ13席」と称している席です。さいとうたかを(斎藤隆夫)が1968年から80歳の今も『ゴルゴ13』の連載を継続している小学館の「ビッグコミック」誌には、『沈黙の艦隊』の作者かわぐちかいじの新作『空母いぶき』が連載されています。単行本化された第1巻第2巻はともに第4刷と書かれています。現在進行形の中国解放軍の再編、陸軍主体からの転換などの動きを背景にした想定を実にリアルに追っています。
 後ろに誰も居ない席で,吉行淳之介『焔の中』をほぼ40数年ぶりに読みました。小学館からP+D BOOKSシリーズとして刊行されたもので、絶版名作が安価で手に入ります。ペーパーバックとデジタル電子書籍が同価格。『焔の中』は450円でした。
 「どうもみんな狂ってきたようだ」、と呟きながら僕は部屋に戻り、久しく会わぬ友人たちの顔を思い浮かべた。その友人たちは、学徒の徴兵延期が廃止になったため入営してしまったり、あるいは入営延期が認められる理科系大学へ進んで地方の都市に移住したりして、僕の身辺には一人もいなくなってしまった。僕自身も、入営を指示する赤色の令状が明日舞いこむかもしれぬ状況に置かれていた。(77頁)」
 1945年春、吉行は文系の東大英文科在籍中であり、理科系に転籍していった中に長崎医科大学へ進んだ親友がいたことを別の文章で読んだことがあります。東京に居残り空襲の焔の中でも生き残った人間と長崎へ転籍して一瞬にして被爆死した人間の運命の分岐点を感じました。山田洋次監督作品の『母と暮らせば』の主人公も長崎医科大学での授業中にこの世から居なくなっています。広島の原爆をテーマにした『父と暮らせば』と同じく何度か観ることになりそうです。吉永小百合演じる独りぼっちになった未亡人を支え、密かに慕う「上海(帰り)のおじさん」を演じる加藤健一の存在感が印象に残りました。そして、戦前の長崎と上海が実に近い距離にあったことを思い起こしました。       (了)

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2016年3月11日金曜日

#155 世界各国の国難と日本外交

  日本政府は確かに多くの外交と内政の課題を抱えています。それでもまだ国難というほどではありません。安倍首相はしばしば「次世代のために」という言葉を使い、実際、次代の日本のために手を打とうとする政策を掲げ、実行に移そうとしています。
   他方、世界各国は将来について考える余裕がないほど目前の問題に振り回されています。日本は今のうちに腰を据えて国の将来について手を打つ時です。今は我慢比べの時代です。
  諸君、何かを得るためには我慢が要る。諸君の次代のために。

◇ 韓国は知っていた。

  3年前に朴大統領が就任した時、「加害者と被害者の歴史的立場は千年の歴史が流 れても変わらない」と発言した彼女が急に日本との関係を改善する姿勢に豹変した。接近を試みた中国政府から軽くあしらわれて成果がなかったとか、アメリカ政府にフレーキをかけられたとか識者の分析をメディアは報道したが、それだけではないだろう。
 私は韓国政府が北朝鮮の核実験を事前に知っていたと推測している。あの強力な韓国情報機関なら、正確な時期は特定できなくとも、迫っていることは情報入手していただろう。国家の安全を脅かす事態に直面して日本との関係を修復する必要に迫られたのだ。これでやっと彼女の豹変を理解できる。
 そこで、慰安婦問題。醒めて考えれば、韓国政府が慰安婦問題を日韓関係の最大の課題としてきたことは信じられない。韓国の経済界もそう思うだろう。韓国政府は先の外相会談で慰安婦問題にけりをつけ、慰安婦像の撤去を約束した。しかし、彼女が自ら煽ってきた反日世論が障害になって像の撤去は進まない。日本大使館前の像は公道に設置されて違法であるのに、韓国政府は撤去できないと言っているのは信用できない。
 日本政府は国際世論に事実を伝えていくしかない。日本外交には問題というほどではない。国連も国際世論の反日には我慢すればよい。それにしても、常のことではあるが、なぜ国連も東京の欧米特派員は事実を曲げて日本に不利な情報しか流さないのか?

◇ 英国政府の苦難

  ヨーロッパ各国が直面している苦難について、英国を一つの例として挙げてみる。  スコットランドの独立をめぐる住民投票に対し、辛うじて切り抜けた後、今度はEU離脱に関して揺すられている。EU域内では、例えば、ポーランドから出稼ぎ労働者が資格に関わらず入れるし、移住も自由だ。英国民の雇用機会が奪われて失業率を高める。 加えて難民が移住し、その中にテロリストが含まれる。EUからの離脱の民意が高まる背景の一つになっている。また、テロに悩まされるから外国人排斥運動が起きる。 
  最近、世界の金融センターであったロンドン證券取引所がニューヨーク證券取引所に買収されることが報道された。かつての大英帝国Great Britainの国民には反感を持たれるだろう。因みに、英国はアメリカではU.K(United Kingdom)と呼ばれる。

◇ 中国政府の苦難

  全人代で政府が施政方針を発表したが、例によってスローガンみたいなものでどれだけ実行されるか。 石炭、不動産、鉄道など万年赤字の巨大国有企業を整理する構造改革も大量の失業者を生むことになる。これらの決算は怪しい。無謀な不動産投資を続けてきた地方政府に対してどこまでメスを入れられるのか。これらの幹部は共産党員であるから、失業すれば、大衆以上の反撃を招くだろう。
  貿易の減少も経済に打撃だ。特に、中国政府は輸出と輸入の両方に関税を課すから 両方で国庫収入が減る。今は中国への海外からの新規投資も大きく減るだろう。政府が目指す6%の経済成長率は無理であり、それどころかマイナス成長を唱える日本の識者がいる。
 経済が低迷する中で、農業・ 改革や環境汚染の問題はどこまで進むのか。この10年を取ってみても、スローガンだけになっている。
 国家経済のほかに、チベット、新疆ウイグル、台湾の独立問題がある。苦難の火種だ。
 習首席は、北京では共産党と政府の権力者であるかもしれないが、国政面ではとても最高権力者とは思えない。目前の敵もいないのに、増強に無節操に金を使う海軍への権力は及んでいないように感じる。中国政府は財政に関する人材を育ててきたものの、低成長に対する経験がない。

◇ 若者諸君、メディアに振り回されるな

  日本が抱える問題は国難というほどではない。東日本震災は国難であったが、今は克服しつつある。 国の根幹体力は経済だ。G7の中でまだ経済がまともなのは日本、アメリカ、カナダくらいなものだ。巨大に膨れ上がった国債の増発もやっとブレーキがかかった。日変わりする為替レートや株価の乱高下に不安を感じるが、一ヶ月にならせば、平均値はほぼ安定している。 心配なことは、政府が「ええかっこし外交」で抑制が利かないように見えることだ。
 ヨーロッパの難民問題は、いつか中国、北朝鮮、それに韓国からの大量移民が日本に押し寄せて国難になる恐れがある。ヨーロッパのようになれば、難民と移民の区別を審査することはできそうもない。今から対策を立てておく必要がある。
 諸君、今は身を固める時だ。どんなに仕事がつまらない、処遇が悪いと思ってもベストを尽くし、少しでもいい、我慢して金を貯めることだ。経済も今に良くなるだろう。          (完)

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