2014年11月17日月曜日

#127 日本と世界の財政危機――政府はどうするのか?

 国の債務残高増が止まらないベルギーでは、政府が覚悟を決めて厳しい緊縮財政に踏み切りました。途端に、福祉予算の削減や景気の後退に反対する市民が10万人規模のデモに参加し、警官隊と衝突しました。 ベルギーのみならず、これまでにギリシャ、スペイン、トルコ、フランスでも緊縮財政が取られ、激しい反対デモが起きました。
  ひるがえり、日本では今年度予算でも国債の発行は増えて累積債務は1000兆円を超えています。政府は国債の抑制を言うだけで危機感は弱い。不思議なことに、野党もあまり声を出さない。 国債残高は諸君の時代にツケがまわります。これでよいのか?

諸君はアメリカの議会選挙をどう見たか?

 私がアメリカ生活を始めた1978年から帰国するまでの約18年間、カーター政権を除いてアメリカの議会は上院か下院のどちらかが与党少数のねじれが続いた。やっと与党が両院で多数を占めたのはリーガン(現地の発音)大統領の2期目だった。そしてクリントン大統領になってまた両院で与党少数になった。むしろ、ねじれは常態なのだ。
 それにも関わらず、日本のメディアはアメリカ政治の一大事と言わんばかりに誇張し、オバマ大統領をレームダック(lame duck, 足が悪いアヒル)と呼ぶ。メディアはアメリカ大統領の偉さを分かっていない。つまり、多数派の共和党がどんな法案を通しても、大統領が署名しなければ成立しないのだ。さらに、議会の権限を凌ぐ大統領令という伝家の宝刀がある。  
 今、大統領に対して共和党が反対している政策には。銃砲規制と移民政策のほかに、政府管掌の国民健康保険制度がある。
 これが最大の争点なのであるが、共和党は民主党の国民健康保険制度に大反対している。ある市民は、「なぜ我々が貧者の保険まで面倒を見なければならないのだ」と言っていたが、元は銃規制と同じく、「自分の身は自分で守る」という伝統の考えなのか。
 かつてクリントン大統領が就任してファーストレディになった夫人が、国民皆保険制度を推進しようとして挫折した。反対が強かったからだ。10年後、オバマ大統領が皆保険の形を変えて、有志の国民が加入できる国の保険を設立した。加入者は増えている。
 共和党議員の中で日本や北欧の国民皆保険制度が破綻寸前であることが知られている。そして、長年財政赤字が続くアメリカでは実現できないと主張している。   リーガン大統領は、少数派の上院対策に苦労し、あの独特の話術を利かせて対立する民主党議員に一人ずつ電話をかけて自分の法案に賛成するよう説得した。リーガン大統領は一本釣りを試みたのだ。後に「リーガン・デモクラット(民主党)」と呼ばれる支持者をつくった。

 リーガン大統領2期目の1987年、初めて両院で多数派になった時、共和党上院リーダーのベーカー議員がテレビの会見で、「我々は長く少数党であったから、対応がまだよく分からない」と言ったことに驚いた。率直な人だな、と思った。彼は後に駐日大使になった。
 因みに、日本では議会の党代表を「院内総務」(多数派はmajority leader)と言う。こんな珍訳をつけたのは外務省か?

  さて、オバマ大統領はこれから共和党に対してどのように説得力を利かせられるか?

まだ増え続ける年金、福祉、医療の予算  

 今年度の国家予算100兆円のうち償還と新規の国債費が約40兆円を占めるが、まだ増える。国が抱える累積の国債と短期借入の総額は1000兆円を超えている。年度予算の10倍、GDPの2倍という異常さ。今年も11兆円が増えた。国民一人当たりの負担は800万円にもなる。
 赤字が止まらないのは、主に年金、福祉、医療の分野で、消費税を10%に上げてもま だ及ばない。
 例えば、65歳以上の高齢者が使う医療費は一人当たり70万円と言われる。私はこれまでほとんど高額医療費を使ったことがないが、一昨年に前立腺癌が見つかり、40日間の通院で放射線治療を受けた。国の負担は70万円を超えただろう。
 健康管理によって病気にならないように誰もが心がけていても、病気は突然やってくる。誰もなりたくて病気にならない。高齢者が増えれば増えるほど国の医療費が増えることを抑えられない。   
 分かっていることは、団塊世代と私のような団塊前世代が死ぬまでの20年間は医療費総額(受給者が支払う保険料と国の医療費負担の総額)が年間60兆円になる(現在は40兆円)ということだ。この難局を克服すればその先は見えてくる。
 結局、あれやこれやで今のままでは国の累積債務は増えこそすれ、減る見通しが立っていない。財政再建が長く叫ばれながら、減らせないのは政府も議員も危機感が弱いからだ。

 国は企業の危機対応を見習え  

 企業が累積債務と年度赤字に直面すれば、リストラとあらゆる経費のカットを実行する。今の国も同じことを実行するしかないのに、なぜできないのか?  日本経済を収縮させる政策を除いても、私に言わせれば、打つべき手はいくらでもある。具体的にいくつか挙げてみよう。  

  1) 首相の「ええかっこし外交」にブレーキ 地球俯瞰外交などというのは、しょせん首相個人の満足になっても金を食うだけ。一回外遊すれば、2機の専用機を飛ばすのに数百万円の経費がかかるとか。これに訪問国への手土産に100億円単位の援助資金供与。国際会議への出席は仕方ないが、それ以外の訪問外交は当面止めるべし。さらに与野党の議員が大挙して中国や韓国に公費で訪問することも自粛すべし。

 2) 海外公館の人員縮小と予算3割カット 外務省では大使は特別処遇されているが、首相も外相もいつでも飛行機で飛んでいける今、戦前の特命全権大使ほどの重職ではない。大使以下の外交官も当面給料カットを我慢してもらう。

  3) JETROの海外と国内事務所の削減 JETROは戦後日本企業の輸出や海外進出のために多大な貢献をしてきた。今では国際コンサルタント会社や銀行の海外支店が相談に応じることができる。民間が力をつけてきた。国内でも中小企業基盤整備機構や県の支援組織と業務が重複している。削減で職を無くした人材は企業が受け皿になればよい。 まだ整理すべき外郭団体は多いはずだ。

  4) 国連予算の削減 本稿でも書いたことで、国連への拠出金の削減。東京にある国連大学支援からの撤退。大学の名がついているが、実態は研究機関であり、必要なら大学研究所や民間のシンクタンクに委託すればよい。

諸君、「若者世論ネット」を立ちあげよ

  私がアメリカ生活中に連邦政府も州政府も省エネ政策を打ち出し、盛んに市民に訴えた。しかし、私の感覚では「しょせん金持ちの倹約」で倹約のうちに入らない。よく腹立ちを覚えた。 今は日本政府の財政改善は掛け声ばかりで、「しょせんお坊ちゃん宰相の倹約」で感覚に限界がある、と腹立ちを覚える。
 諸君よ、累積債務の問題は他人事ではない。立ちあがれ!ネットに距離はない。北海道と沖縄の間で瞬時につながるのだよ。                   (完)

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