2014年2月21日金曜日

#109 大阪の若者諸君、これでよいのか――橋下市長の辞任

 大阪市の橋下市長が2月15に辞任し、3月23日に投票が行われます。大阪都構想のうち大阪市の区割りをどうするかという試案をどれも市議会が反対したので、市民の後押しを受けるために選挙をやるというのです。6億円の費用がかかるとか。むなしいことです。  諸君の多くには直接関わりがないが、橋下市長が果敢に時代を変革しようとした試みを知ることは有益です。
 なんと言っても明治以来の行政制度の改革は、諸君が住む県でも求められていることに変わりがないのです。
 私は95年に帰国してから大阪に住み、その間専門の経営のほかに地方政治の改革を研究し、実践もしてきました。この連載の別枠で「ネット月刊誌『言論大阪』」を26回書いて、関係方面に働きかけてきましたが、なかなか広がりませんでした。#25に大阪の課題をまとめています。「言論大阪」で検索すると開けますから、自分たちの町と比較して参考にしてください。

大阪都構想と大阪市長選挙  

 大阪都の構想は、東京都の例にならって大阪市を廃止する代わりに既存の区を1/6くらいの数の特別区にするものだ。  何が変わるのか?  私は前述の連載「言論大阪」の中で橋下知事(市長)の構想について「狭い大阪(府)をこねまわしところで何も変わらない」と疑問を投げかけてきた。
 橋下前知事は言う。
 「大阪に二人のリーダー(知事と大阪市長)は要らない」  
 「府と市の二重行政の無駄を省く」  
 「ばらばらの公共事業を一元化する」
 「府と市の水道事業を統合し、ダムやニュータウンの建設を中止する」
 これらの目的について私が言ってきたことは、いずれも現行の制度でも知事と市長が話し合えば改革できることだ。それができない。大阪都にするならできるのか?  
 要するに、目的がはっきりしないのだ。だから当時私の周囲でかなりの教養水準がある人たちでさえ「なんのために?」と問うほど目的が分からないでいた。まして一般の府民がどれだけ理解しているのか怪しい。
 さて、今回の出直し市長選挙について、世論調査では大阪市民の6割以上が支持していない。反対する議会の構成は変わらないし、無投票になれば支持率さえ分からない。有力政党が対立候補を出してくれれば、橋下市長への投票者数が一つの支持目安になるのであるが、どの政党も意味がない、あほらしいと思っているから候補者を立てないだろう。

次世代には大阪都より関西県

 橋下市長は在任中に大阪市の区割りや都構想の設計図をつくるという。しかし、議会は反対するから実現は進展しない。市民の多数も賛成しないだろう。なぜ橋下市長は情勢を読めないのか?単に掲げた公約に面子をかけているだけに見える。
 彼は道州制にも期待していない。何しろその道州制は提唱されてから半世紀も経っているのにさっぱり実現しそうにもない。 私は近隣の県統合への第一弾として、大阪府、奈良県、和歌山県を統合して関西県をつくることを提唱してきた。関西県の新県庁を奈良に置くことで全体が活性化されると思うからだ。大阪市は関西県の経済の中心であり、地域の最大都市である地位は変わらない。
 なぜ京都府と兵庫県との統合ではないかと言うと、年来「京阪神は一つ」と言われてきたが、私の生活観では「京阪神は一つずつ」なのだ。何をするにしても、ばらばらで統合の可能性は無きに等しい。  
 若者諸君よ、私がいつも言うように、次代は諸君がつくるのだよ。旧世代にやらせておいて、自分たちには「関係ないよ」と構えていてそれでよいのか?

曖昧な一票の格差と県の統合  

 2010年の衆院選挙では一票の格差が2.43倍、2012年の参院選挙では5.0倍でいずれも「違憲状態」という判決が出た。特に一つの判決は「選挙無効」とされた。
 全国各地での訴訟は憲法14条の「法の下の平等」を根拠にしている。それでは、一票の格差が何倍以内なら合憲なのか明確ではない。国会もそれなりに議員の選挙区割り振りを変えて是正したが、この程度の是正ではまだ違憲なのだ。各県に最低一人の議員を配する一人別枠方式があることが是正の制約になっている。また、厳格に有権者数を基準にすると、大都市圏からの議員が圧倒的に増えてしまう、これが公平なのか?
 是正の一環として、例えば、鳥取県と島根県を一つの選挙区にする合区が提案されたが、政党間で合意されなかった。これは選挙区以上の発想を与えてくれる。
 それは現行の各県の間で統合を進めることだ。なんと明治以来140年も現行の県制度は変わっていない。 例えば、人口58万人の鳥取県と岡山県、人口70万人の島根県と広島県を統合して、瀬戸内海から日本海まで一体の兵庫県のようにすることが挙げられる。すると、隣県との統合は土地柄が違い、郷土意識が強いからうまくいくはずがないと反論されるだろう。
 しかし、私はさらに反論する。260年間の江戸時代、300を超える大名領の藩があり、各々の藩意識は強かっただろうが、明治4年の廃藩置県で新政府がそのままの数で藩を県として大名から領地を取り上げた。その後18年もかかって今と同じ数の3府43県に統合した。
 東京府は東京都に変わり、北海道が加わって現在の47都道府県になった。 明治政府の困難に比べれば、47を40以下にすることはやれないはずがない。

橋下徹、もったいない人材  

 選挙強者の橋下市長には弁護士としての論理的思考力、スピーチの歯切れ良さ、ネアカで何を言っても心底から憎まれないキャラクターなど政治家としての資質が備わっている。大胆な言動も資質で、天性のユーモアもある。さらに大した戦略家だ。彼には大阪の社会、なかんずく行政の不合理性がよく見えたはずだ。
 ここからは私の推測である。
 彼は大阪をなんとか変えたいと思った。そこで、先ず大阪都構想に引っかけて大阪維新の会というアドバルーンを上げた。その先には維新の会を全国政党に育て、彼自身も国会議員になる大戦略を立てた。大阪都を実現するには国の法律を変えなければならないという大義が立つ。
 そして、国会で第三勢力になる日本維新の会を実現した。
 橋下さん、大阪都の設計図をつくるなんて大した意味がない。大阪市の議会も市民も支持しないのだから撤退を考える時だ。「ねばるか、退くか」という決断は本当に難しい。それでも、今は「ここで退けば男がすたる」などと非論理の思考はあなたに似合わない。
 日本維新の会の共同代表、石原慎太郎衆議員は高齢だから顧問に下がりたいだろう。あなたには「日本維新党」に会を改名して代表になり、国政改革を進めてほしい。               (完)

≪追記。3/27≫ 3月23日、大阪市長選挙の投開票の結果、予想された通り投票率は史上最低の23.6%、橋下候補がわずか38万票足らずの得票で再選された。この中には大阪都構想も分からない橋下人気票が含まれるから、大阪都構想の支持者はわずかだろう。
 橋下市長さん、大阪都構想は敗れたり! 大阪市と府の改革にはいっぱいやるべきことがあるのだから、どうか大阪都構想と心中しないでほしい。

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2014年2月13日木曜日

#108 世界で荒れる反政府デモーー大衆は分かっているか?

 カイロ、バンコック、キエフで10万人以上の大規模デモが起きています。いつまで続くか?
 一時荒れ狂ったイスタンブール、マドリッド、アテネ、プノンペンでのデモは静かになりましたが、どちらも首相が変わったわけではありません。大衆の不満はガス抜きをしておさまったのでしょうか。  
 民主主義の制度は常に揺すられるものです。逆に言えば、揺すられることこそ民主主義の根幹ですから、私たちはより良いものを求めるのであって、完全を求めることは非現実的なのです。
 私は中国政府の政策を批判する半面、独裁者政権ではない一党独裁の政体を支持し、発展途上国が建国の参考にできる新しい民主主義の形をつくってくれることを期待しています。つまり、大会社のように、優れた人材が競争で昇進し、役員の中から社長が選ばれる組織です。もし社員が投票で社長を選ぶような制度では会社は成り立たない。  
 今の西洋型民主主義は新興国の建国初期には合わない、と私は思っています。  さて、諸君はどう思いますか?

各国のデモの類似と違い  

 エジプトとトルコのデモで共通することは、政権がイスラム教原理主義を強めようとしたことにある。つまり、政治をコーランに基づいて支配を強めようとしたのだ。これに対し、大衆が反発した。
 この両国はもともと「世俗主義」の政治が行われていた。それにしても、マスコミが使う「世俗主義」の訳はいかにも次元が低く聞こえる。「政教分離主義」の言葉を使うべきだ。 「政教分離主義」とは宗教の原理ではなく、法律に基づくことであり、世界の多くで行われている。統治の手段として宗教を利用することは、政治のあるべき姿ではない。  
 自由な価値観を持てる私たちから見れば、なかなか分かりにくい。 バンコック(タイ)の暴動は上記2国とは違う。  
 インラック女性首相は2011年に首相に就任してから、連立与党で議会過半数を支配して政権運営をやってきたが、今回は空港占拠事件に次いで2回目の大規模反政府デモに遭っている。  反政府側の要求は、「インラック首相辞任と選挙の延期」であるから、仮にイ首相が辞任しても民主主義のルールに従って与党から新首相が選ばれる。選挙をしても与党側が勝つことが見込まれている。まして選挙をやらなければ現状維持にしかならない。おそらく新首相が選ばれたところで、反政府側はデモを続けるだろう。これは泥沼闘争だ。  
 これまでタイは軍部によるクーデターは2006年の一回だけで、民主主義が機能してきた国だ。デモ大衆の多くは、不満に乗じられて元副首相の反政府側リーダーの政治的野心のために利用されているのかもしれない。
  私が出張で行っていた70年代のタイは穏やかそのものの国だった。

集団的自衛権の解釈変更

  経済、財政赤字、社会福祉制度、原発事故の後始末など政治課題が多い今、なぜ安倍首相は集団的自衛権の解釈を変えることにこだわるのだろうか? 
 確かに、「我が国は集団的自衛権を有するが、行使はできない」という内閣法制局の解釈はおかしい。集団的自衛権を持つなら行使できることは当然の道理だ。そうかと言って今解釈の変更、まして憲法改訂は緊急を要する課題ではない。  仮の話を二つ挙げて説明してみたい。  

 尖閣諸島に中国軍が上陸するケース。  
 自衛隊は三軍を動員して島を包囲し、中国軍が退去しなければ陸上自衛隊が上陸作戦を敢行する姿勢を見せるだろう。他方、米軍は日米安保条約に基づいて島近海に空母を中心に第七艦隊を派遣し、後方支援に当たる。孤立した中国上陸部隊は撤退するしかない。いくら世論の支持を受けても中国政府はこんな冒険をするとは思えない。

 北朝鮮が嘉手納基地をミサイルで攻撃するケース。  これは米軍基地と日本領土が同時に攻撃対象にされることから、米軍は当然反撃態勢を敷くし、自衛隊も支援しなければならない状況に置かれる。しかし、日米両国軍がミサイルによる迎撃体制が敷かれているので、北朝鮮が攻撃する可能性は少ない。
  日本は集団的自衛権を行使できないとすれば、日米同盟が崩れかねない上に世界は理解に苦しむだろう。
 政府が今は事を急がずに、反対勢力が現実に直面するまで待てばよいのだ。念のため、憲法の歯止めとして日本が脅かされるケース以外には、遠くの国への攻撃に自衛隊の戦闘部隊を派遣しないことだ。あくまで自衛権に限ることが国是である。

日本のデモの実態

 特定秘密保護法をめぐり、国会前にデモの群衆が集まった。テレビニュースのインタビューに答えた群衆の中に、反対の理由を「言論の自由が失われる」と言っていたが、法律を理解していない。 取材とスクープの自由が脅かされ、国の安全保障に関わる情報にとどまらず、官僚が広く情報の囲い込みをする可能性はあるが、だからこそ秘密情報をチェックする機関が必要なのだ。マスコミの真価も問われる。
 国の情報保護については1985年の「スパイ防止法」も、2011年の「秘密保護法」も廃案になっている。日本を取り巻く国際情勢が大きく変わった今、リスクはあっても「秘密保護法」は国家として持つべき法律ではないか。                 (完)

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