2012年8月16日木曜日

#71 富山は新聞の激戦地ーー何を物語るか

    若者諸君、残暑お見舞い申し上げます。
   先月に大阪から富山に移住して夏休みの生活を過ごし、たっぷり休養しました。こんな長い休養は大学を卒業してから初めてのことです。今月から「若者塾」を再開します。
  今回のテーマは新しい土地に住んだ時の私と新聞についてです。アメリカの町、富山、大阪の三つを比較してみましょう。

アメリカの町の新聞  
  もう34年も前のこと、家族とともにアメリカの小さな町に移住した。ペンシルベニア州の北西端にある人口2万人のミッドビル市という町で、周辺の町村を合わせても3万人の地域。ここにMeadville Tribuneという創立110年になる地元紙がある。住民のうち半分が購読していた。  人々は、「誤字が時々目につく」とか「スポーツ紙面が多過ぎる」とか文句を言いながら、それでも地元紙を愛読して支えていた。地元紙は市政の動き、地域活動、学校スポーツ、お悔みや結婚など地域の情報を細かに伝えるので、住民、特に新住民が町を知る助けになっている。
  また、広告面が重要な役割を果たしている。地域の商店が特売などを伝える媒体として安い経費で使うことができる。そのせいか、折り込みのチラシはめったに使われない。  
 他方、全国紙はどうなっているかと言うと、アメリカではどこにでもある地元紙のほか、大都市の地方紙が有力であるため、全国紙にはNew York Timesの日曜版とWall Street Journalしかない。どちらも発行部数が120万部くらいで、1000万部の日本の大新聞とは比較にならない。これに加えて、80年代後半に新しく発行されて急成長したUSA Todayが全国紙になった。同紙は初めてカラー刷りで政治、経済の記事のほかスポーツ面に力を入れて成功した。論説や読者意見は読みやすい。私は出張の時に空港の売店で買っていた。
 私は友達にならってNew York Timesの日曜版を本屋に予約して買っていた。当時は2ドル50セントであったが、テーマ別に数冊からなる同紙は読み切れないほどの大部であり、日曜に行事でもあると読み残しがたまってしまう。本屋によると、町全体で200部が読まれているそうで、全人口の1%に過ぎない。

富山の新聞  
 富山県は新聞の激戦地だ。日経を含め全国紙5紙に加えてブロック3紙の一つである中日新聞が入っている。これに北日本新聞、北国新聞、富山新聞の地方紙がある。  前者の2紙は富山県と石川県の読者を対象にする広域紙であり、富山新聞も県域紙で本来の地元紙ではない。
 さあて、どの新聞を購読するか? 思案のあげく、アメリカ生活の原点に帰って9紙の中でもっとも地元紙に近い富山新聞に決めた。読み始めると、全紙面にわたってカラー写真がわんさと使われ、見出しの活字や囲いも青などカラーで飾られている。USA Todayが華々しく登場した時の紙面よりすごい。今はいくらか慣れてきたが、目が散るようで読みにくい。我慢するというほどではないが、そのうち馴染むだろうと思っている。
 かつてアメリカの新聞にカラー刷りが増えてきた時、カラー紙面の新聞がリササイクルされる障害にならないのだろうかと疑問を持った。黒だけなら脱色が簡単であるが、多色の紙面に対しては何種類もの中和の化学反応を使わなければならないからだ。今は技術が進歩したのだろうか。  技術の進歩と言えば、全国紙の社説や主要記事をネットで読めることもその一つだ。

大阪の新聞  
 大阪府には、多分全国で唯一か、広域の地方紙が一つもない。一つだけあるが、発行部数が1万部以下で地元紙としての役割は限られている。全国紙の完全支配市場だ。その上、スポーツ、芸能、競馬競輪のスポーツ新聞が何紙もあり、広く読まれている。隣接する府県には立派な県域紙があるのに、大阪にはない。なぜなのか?
 私がアメリカから茨木市(人口27万人)に帰って新住民になった時には、地元事情を知るすべがなくて困った。全国紙には府下版の紙面があるが、茨木市のことは分からない。月1回届けられる行政の広報冊子だけが頼りだった。  
 よく言われたことであるが、「地元紙など大阪人は読まない」と。

全国の地方新聞  
  新聞の激戦地は北陸のほかに、東北や中国地方に多いようだ。  私が知る範囲では、市域対象の地元紙が山口県の宇部市(人口17万人)にある。夕刊紙「宇部時報」だ。活字離れと言われる困難な時代に生き残ってほしいと願う。
 私流に表現すれば、「地元紙は民度を計るものさし」ではないか。  地元新聞は広く市民の活動を報道するだけではなく、それを支援している。あちこちで行われる花火大会も新聞が主催者だった。                               (完)

Read more...

Back to TOP  

編集

Back to TOP