2017年8月27日日曜日

179 不二越会長の暴言――富山篇①

 大阪から富山に移住して6年目、新しい土地で郷土意識を持つようになってきました。  不二越問題をきっかけにして生活地の問題を富山篇として書き始めることにしました。諸君がどの町に住んでいようと地方の町を考える上で参考にしてほしいと思います。 
 今回、事の起こりは不二越の本間会長が7月5日の記者会見で地方蔑視の暴言を吐いたことです。 

 ◇ 決算発表の記者会見で暴言 

 二つの発言は、富山人は閉鎖的であるから富山出身者は採用しないと言ったこと。他は本社を東京に一元化すること。  採用について地元紙の記事によれば、「(前段略) 富山で生まれて幼稚園、小学校、中学校、高校、不二越。これは駄目です。 今年も75名くらい採ったが、富山で生まれて地方の大学に行った人でも極力採らないです。学卒ですよ。地方で生まれて、地方の大学もしくは富山大学に来た人は採ります。しかし、富山で生まれて地方の大学へ行った人でも極力採りません。なぜか。閉鎖された考え方が非常に強いです。偏見かも分からないけど強いです。  閉鎖的な考え方が強いです。いや優秀な人は多いですよ。富山の人には。だけど私の何十年、40年くらいの会社に入ってからの印象は、そういう印象が強いです。ですから全国から集めます」 
 当日のNHKテレビの全国ニュースで会長の生の声を聴いたから、新聞報道は間違いがない。     県民も不二越OBも怒っている。下記には不適切な表現があるが、発言者の意見を尊重してそのまま書く。 

 「彼は富山人をよく知らないまま蔑視している」 
 「東京という一地方しか知らない彼は他の地方を見下している」 
 「教養がない。人間力が弱い」  「多彩な人材がいる不二越で彼のような二流私大の経営学部卒でなぜメーカーの社長、会長になれたのか? 権力闘争に強かったのだろう」
 「富山大の学生は不二越を第二志望か第三志望の就職先にするやろ」 
 「ホームページで謝ったくらいでは済まない。退任すべきだ」 
 「こんなバカが会社の顔であることは恥ずかしい。即刻辞めろ」

 ◇ 本社の東京移転 

 この決断も彼の思考は論理的ではない。 
 「東京に本社を移せば良いソフト技術者を採れる」と言うが、IT技術の卒業者には売り手市場でベンチャーから大企業のIT企業、それに高名な東京本社のメーカーまで就職の選択は広い。とてつもなく広い。こんな就職戦線の中で「東京に本社を移しても人材を採れない」かもしれないのだ。  目標が優秀なソフトの人材を採ることなら、富山のIT企業から転職者を求めることが現実的だ。全国的に知られていないかもしれないが、富山には全国でも屈指のIT企業であるインテック社を頂点として広いIT企業の集積がある。引き抜きではなく、円満な交渉で人材をもらい受けることも可能だろう。アメリカでも日本でもIT企業で働く技術者の中には、いつかメーカーの仕事をしてみたいという人材がいるからだ。
  会長が言う「富山人は閉鎖的」が問題ではなく、中途入社の人材を定着させる企業風土に欠けることだろう。だから、今、緊急に手を打つことは、本社移転より社員の意識改革と組織改革の二つではないか。
  私は北海道で学生生活をしていた時、「北海道、北海道人は閉鎖的」という声を何度も聞いたし、大阪では「京都は閉鎖的」とよく言われていた。皮肉なことに、閉鎖的な京都ではベンチャー企業から立ち上がって大企業に成長した企業が大阪よりはるかに多い。
  地元を閉鎖的と言う批難は、抱える問題を他のせいにするもので、当てにならない。

 ◇ 本社移転について私の提案 

 私は米国企業に転職するため37歳(1977)の時に退職した不二越OBである。 
 滞米中に一時帰国した時、当時の不二越社長から新橋の料亭で会食に招かれた。上下関係がない間柄のこと、日米の経営から世間事情までお互いに好きなことを話した。 
 その中で、北陸新幹線の計画が政府決定した頃、富山駅北口一帯の開発が動き出していたことに話しが及んだ。そこで思いついて不二越の「世界本社」の高層ビルを北口に建設することを提案した。この頃は北口はほとんどが空き地だった。不二越、商社、地元不動産会社の共同出資でナチビルを建設する事業会社への投資はリスクがないというのが私の考えだった。高層ビルの5階までは他社が入居、それ以上の階には不二越新本社が入る。新本社には富山工場内にある本社と東京本社をすべて集約して、海外子会社群もこの世界本社から統括するという構想だった。
   世界各国に出張してきた社長はドイツの大企業は地方都市に本社があると応えた。
  私はアメリカの例を挙げ、ボーイングの世界本社はシアトルの郊外都市人口9万人のエバレット(後にシカゴへ移転)、キャタピラーはイリノイ州の人口11万人のピオリア、テーパーベアリンクの世界最大メーカーであるティムケンはオハイオ州の人口9万人のカントンに本社があり、他にも多くの例があることを話した。  
  この時には飲み話で終わったが、私はその後も役員に話してきた。当時では時代が早過ぎたかもしれないが、通信技術が発達した今でも遅くはないと思っている。  今、北口の開発が進み、ビルの間に通る並木道、そこを走るライトレール、近隣の環水公園を含む一帯は美しい。富山いや全国でも最も垢抜けしている地域の一つだ。

 ◇ 会長退任に追い込むのは難しい 

 会長の発言は労働基準局からも違法の不公正採用を指摘された。彼の本心から出たので、不用意な失言ではない。 
  法律違反はとにかく、会社のイメージを大きく傷つけたことは重罪であり辞任に値する。 しかし、代表取締役会長は人事権を持つから、仮に気骨がある取締役が会長を批判するなら首を切られる。取締役会で半数が退任を求めたところで、半数を超えるまでに情報が漏れてしまう。みんな会社のことより自分の地位が大事なので彼らを責めてもしようがない。
 次に、株主総会で動議を出しても半数の賛成者を得る見込みはないし、多分動議を無視されるだろう。総会の議長は会長が取り仕切るのだ。この株主総会は2月に済んだので来年の総会まで時間がある。多分会長の計算に入っているだろう。 
  このように、代表取締役の地位は強い。 
  現実に、会長を退任に追い込むためには、いくつもある社員OB会と元役員が退任を求める要求書を本社に提出するしかない。メディアにも取り上げさせる。
  会長はこれから取締役会でも社員にも冷たい空気にさらされるだろうが、これも無視して会長にとどまるだろうか?                     (完)

Read more...

Back to TOP  

編集

Back to TOP