2018年5月24日木曜日

#196 野党は国政に戻れ――ばらばらの政治

 野党は森友加計問題について与党の対応が悪いという理由で国会を19日間も空転させました。閉会まで一ヶ月になろうとしているのに、いくつもの重要法案の審議が止まりました。 
 野党と与党の議員は19日分の議員報酬を返してもらいたい。諸君はどう思いますか?

 ◇ 男女共同参画推進法の全会一致  
 推進法は女性の社会進出を促進するために法律化したものであるが、いろいろ問題があることをメディアが報道していない。中でも国政選挙に男女同数の候補者を立てることを法律で定めようというのはひどい。もっと問題であると思うことは、国会両院での採決が全会一致であることだ。つまり一人の議員も反対しなかった。これは異常だ。言うならば、法案がおかしい。世間では女性の中にも反対者がいる。 
 諸君たちはアメリカの後追いと思っているかもしれないが、この法案は日本独自のものでアメリカには無い。 
 アメリカにはaffirmative actionと呼ばれて女性、黒人を始め少数派を支援する動きがあるが、10年も前か、有力大学が少数派に対して共通試験SATの点数を底上げすることを始めた。しかし、少数派の比率に応じて定員を割り振りするquota 制は実施していない。また、逆差別になるとして反対意見は根強い。
  なぜこんな法案が民意を必ずしも反映しない全会一致なのだろうか? 

議会制民主主義にも危うさ 
 この法案に対して反対する議員は一人や二人ではないと思う。本心では反対でも選挙を考えれば反対できないのだろう。私は世論を汲むことと有権者の顔色を伺うことは違うのだと思う。 まだこの法案に救いがあることは、男女同数の候補者であって、男女同数の議員ではないことだ。この法案は現実に効果がない結果になった時、今度は世論に押されて男女同数の新法が国会に出される可能性がある。これはquota制つまり割り当て制であり、希望的観測であるが、全会一致にならないだろう。
  敢えて言うなら、女性の多くは一点にこだわり過ぎ、全体を見ることに欠けるようだから国政の政策責任者には向かない。現に目前の一点に集中する利点を生かせる研究者、弁護士、会計士や官僚に能力を発揮している女性は少なくない。
  我々が信じる民主主義の根幹である選挙に基づく議会制民主主義にも危うさがあることを認識したい。

 ◇ 改憲と住民投票  
 今の憲法ができて80年、一行一句すら改訂されていないことは、世界でも珍しい。 
 この間に世界は激変した。日本は改憲の壁が高いので、国の安全保障についてはやむなく現実的に法律の範囲で対応してきた。相変わらず改憲は戦争につながるという平和一点主義の世論が根強い。 
 これまで自民党政権は中曽根首相以来、改憲を説得してきたが、最近の世論調査では賛成がやっと51%を超えた。しかし、住民投票の段階になると、反対のメディアが煽って住民の中には反対者が増えるだろう。まだ住民投票には早い。世論は改憲反対に流れる。
  わかりやすく説得を続けると首相は言うが、国民の理解を増やすことは、現実にはなかなか困難なことなのだ。例を挙げてみよう。  
 私がよく使う喩え話で、政治から同窓会まで会を組織しようとすると、「据え膳をつくる人は10%以下、据え膳を食べてくれる人は多くて40%、残る半分以上の人は出された据え膳を食べようとしない」、つまり半分は関心を持たない。
  どの世論調査においても、約半分は「どちらとも言えない」だ。これからは「どちらとも言えない」を「どうでもいい」か「わからない」に変えたらどうか。要するに無関心なのだから。

 ◇ 野党はほかにやることがないのか? 
 国会が再開されても、相変わらず審議の時間は森友・加計に費やされている。野党はほかにやることがないのか?
  野党がどれくらい気づいているか怪しいが、世間の目は冷たい。森友・加計問題の追及について、「もうええ加減にしろ」、「追求はもうどうでもいい」と言われている。現に政党支持率の世論調査では野党はどれも上がっていない。
  私は、森友問題の追及は大阪地検の捜査結果が出るまで中止すること、加計問題については当面休戦することを提案したい。「言った、言わない」、「あった、なかった」、「隠した、隠さない」などと水掛け論がいつまでも続くからだ。 この間に重要法案をしっかり吟味し、野党の考えで修正することに集中してほしい。
 これまでと今の法案について、私の疑問は、例えば

 ① なぜ国家の最重要課題である財政健全化に合わない年度予算をあっさり通したのか?
 ② 当時の民主党が実施した事業仕分けと天下り規制はどうなったのか? (私の推測では自民党政権になってから緩んでいるはず)
 ③ 地方創生など各地方でやれること。首都圏集中対策に予算を使ったらどうか?                               (完)

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2018年5月11日金曜日

#195 トヨタの内部留保――トヨタは下請けに為替差益を返せ

 最近の新聞でトヨタが18兆円の内部留保を貯め込んでいると報道されました。また、今期の利益は最高で2.8兆円と今週の新聞に出ました。他の産業ではとてもこんな利益を出すことはできません。その中には下請けからの搾取によるものがあるでしょう。  私が末端の下請け企業で社長として経営再建に当たったことから、一つの例として実態を書いてみましょう。

 ◇ 下請け企業の実態 
 自動車メーカーの下請けには四重構造がある。それは自動車メーカーに直接納入をする 大手部品メーカーは下請けから部品をセットとして供給され、その下に小部品をセットとして組み立てる中堅メーカーがある。さらに部品を単品として納入する下請けがある。この部品メーカーも一部の加工をさせる末端の下請けを持っている。これは四次下請けだ。 
 二次下請けまでは利益を出しているが、以下の経営は赤字か最小の利益しか出せない。
  私がU社の社長に就任した時、月末になると運転資金が底をつき、毎月地元の信金から緊急融資を受けていた。すでに累積赤字(借金)は資本金の10倍を超えていた。 
 私の最終目標は月末の緊急融資を無くし、新しく経営陣の体制をつくることであった。最初の目標として「持てる技術を生かしていないものと、赤字を変えられないものは新規受注に置き換えて生産を止める」と社員に表明した。営業に自動車部品以外の新規開拓をするようにプレッシャーをかけた。「これ以外に赤字を削減し、給料を上げる手はない」と言った。 
 半年の間、私自ら値下げを要求してきた大手に出向いて、「我が社は要請された値下げについていけない。二ヶ月は現行価格で納入するから、代わりのメーカーを見つけてほしい」と条件を出して認められた。 
 ある日、検査を担当する女性社員が産休を取った。後に成果が出て、月末の緊急融資はなくなった。しかし、まだ月度決算の赤字は続いた。 
 製造部門から代わりの検査工を採用するように要望が出てきたが、電気メーカーに納入してきた単純な加工品で全数検査のコストがかかり、赤字であるこの製品を止めることにした。産休で直ぐには熟練工を雇えないことを理由にし、これから二ヶ月は納入するが、検査なしを条件にした。 営業に対し、代わりの受注を取ってくるように圧力をかけた。

 ◇ 自動車メーカーの御用商人  
 ある日、トヨタ系列の大部品メーカーと取り引きしている専門商社に連れられて二次部品メーカーを訪れた。簡単な電極が埋め込まれた納入部品の中に磁性を帯びている部品が一点見つかったので全品クレームとして返品するというのだ。私は一点だけ代品を納めることで折り合いをつけようとした。ところが、このロットには他にも磁性を帯びているものが含まれる恐れがあるとして全品の代納にこだわった。 
 そこで、不良品と言われる一品を持ち帰って再検査したいと申し出ると、商社担当者は、もう結論だと引き下がらない。私は多少むかついて、「我が社には磁性を出す環境はないので、全品を持ち帰って全品検査をすることではどうですか」と反論した。
  結局、泣く子と買い手には逆らえないと観念した。作り直しで赤字になった。 
 この時、一つの発想を得た。それはこの商社は尾張藩お抱えの御用商人なのだ、と。  
 打ち合わせ前に会議室のテーブルで待機しているところへ部品メーカーの担当者3人が入ってきた。驚いたことに、商社マンはすかさず席を立つと、入り口まで行き、3人の前で上体を45度以上に下げて最敬礼して出迎えた。部下と私はあっけにとられてそのまま座り、テーブルを挟んで名詞交換した。私は営業経験が長いが、ここまで最敬礼する場に出合ったことはなかった。アメリカではたとえクレーム処理の打ち合わせでも両者が軽く握手して挨拶することが普通だから、前述のような最敬礼の場を見たらびっくりするだろう。 
 後日、この商社から営業部長に電話で私が反論したことに対し、文句を言ってきた。営業部長は私に謝罪に行けと言うから、「出張費しかかからないからいくらでも行ってやる。ところで、何か私が間違ったことを言ったと思うか?商売の気遣いとして相手の言い分に沿っても饅頭のあんこである論理はしっかりと理解しろよ」と話した。 
 結局、これ以上謝罪の要求はなかった。取り引きを切られることもなかった。多分彼を諌める上司がいたのかもしれない。 
 しかし、今回は相手の言いなりになるより仕方なかった。

 ◇ 一寸の虫にも五分の魂 
 利益率が薄い製品を新規に取り引きする下請けに外注することにした。自ら出向き社長と交渉して価格では受け入れられた。
  ところが、トヨタから順に降りてきた例の「不良品が出た時には買い手と売り手の間で全損害の賠償について両者で交渉の上で決める」という条文を受け入れられないと言った。私は困ったが、この社員15人くらいの中小企業の社長の気概に感心した。この中小企業は大口の注文を取らない方針だという。 
 結局、発注しなかった。  この会社の社長は、言うなれば「一寸の虫にも五分の魂」の持ち主だった。  

 ◇ 『自動車絶望工場』 
 アメリカでニューヨークに出かけた時、本屋で偶然英語版の『自動車絶望工場』(鎌田慧著、講談社)を見つけて買った。日本メーカーが相次いで現地生産を始めた頃であった。 
 その後、一時帰国した時に日本語の原書を買ってすぐに読んだ。すると、原書ではマルクス主義について書かれているのに、英語版ではすべて省かれていることに気がついた。 
 強い関心が湧いて早速著者に連絡したところ、快く会っていただけた。彼の話によると、すべてアメリカの出版社まかせで英語版の編集稿を読む機会はなかったという。憶測でいろいろと話し合った。要するに、アメリカではマルクスも社会主義も嫌われていて販売阻害になるからだろう。もう一つ挙げれば、アメリカ市場で勢いを増してきたトヨタ社に対して、トヨタのすさまじい日本での生産の実情を暴く悪意もあったかもしれない。  

 ◇ 為替差益の一部を下請けに返せ 
 2008年9月のリーマンショックの後12月から円高が進み、12月には87円/ドルになった。さらに80円を切った。 
 この時、トヨタは全下請けに社内レート85円に対処するために猛烈な値下げ要求をした。一度下げられた価格は元にもどしてもらえず。現在もトヨタ以下の下請けに対する「生かさず殺さず」の政策は続いている。天守閣に居る藩主はどれだけ実態を知っているのだろうか。 
 今、藩主の英断でトヨタの繁栄を賃上げもままならない下請けにも分かち与えることを要望したい。他社も続くだろう。そうすれば景気にプラスになる。 
 レースカー専用のテストコースに18億円もつぎこむ藩主の道楽をやめて名君になってほしい。                (完)    

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