2018年8月21日火曜日

#201 学生スポーツとNCAA――アメリカに追随するな

 前回でスポーツ団体の不祥事はまだあると書きました通り、日本剣道連盟でも教士になるための資格審査の前に、候補者が審査員に金を払っていたことが露見しました。
 日大アメフト部、日本ボクシンク連盟の不祥事から続いたことです。
 日大アメフト部事件の前に、テレビ番組でジャーナリストが、大学運動部の改革のためにアメリカにならってNCAA日本版の組織をつくる必要があると説いていましたが、これは問題があると思います。指摘してみましょう。

  NCAAとは何か?
1990年に『College Sports Inc.』がNew YorkHenry Holtという著名な出版社から刊行された。直訳すると『大学スポーツ株式会社』だ。
NCAAというのは全米大学体育協会のことで、全米の大学運動部を支配、運動部長は大学の一つの要職であるが、任命はNCAAが行う。米国で学生の四大スポーツと言われるフットボール、バスケットボール、アイスホッケー、レスリングなどの競技会を主催し、その興行収入から潤沢な資金を得ている。分配はNCAAが決める。
運動部長の任命権も罷免権も学長は持っていない。言い換えれば、大学の中の運動部を学外から水平組織として支配している。
有望な選手を大学に推薦入学させるが、その中で競技を辞める選手は同時に大学から退学させる。
高校野球部のコーチをしていた時に教え子の一人が、テキサスの野球強豪大学に推薦入学したが、半年後にコーチと口論したことで退学処分にされた。低所得の母と子一人の家庭で前途多難だ。
私は過去に本の出版で世話になった編集者に声をかけたが、当時NCAAは日本ではまったく知られていなかったので見送りになった。
前述の本が出た頃、NCAAを批判する意見があった。今もある。

  アメリカの学生レスリングの人気
隣町にアメリカでレスリングの英雄として知られるブルース・バウムガートナート懇意になった。彼はオリンピックで二つの金メダルと一つの銀メダルを取り、アトランタ・オリンピックではアメリカ選手団の旗手に選ばれた。彼がコーチ(監督)をする大学レスリング部を二度訪ねてNCAAの話を聞いた。自宅に夕食を招いたこともある。
翻訳が実現しなかったので、スクールバスに同乗して全米レスリング大会にも出かけ、
大相撲本場所に匹敵する会場の雰囲気に驚いた。
 その後で、月刊誌『オリンピアン』(11月号から5回連載、1996年、ベースボールマガジン社)に「三人の金メダリスト」を寄稿した。他の二人の金メダリストは日本の佐藤満と韓国のキムヨンナム、直接取材して話を聞いた。ここで三国のスポーツ環境の違いを書いた。
 興味を引いたことは、ブルースを除いて他の二人は息子にはやらせたくないと言ったことだった。

  「NCAAから学べ?」、論理がおかしい
一連のスポーツ団体の不祥事が起きる前に、テレビ番組でスポーツジャーナリストが
NCAA日本版をつくる必要があると提唱していた。私は驚いた。
「NCAAのどこが良いのだ?」、「もっと勉強してからものを言え」と思った。
 もっと大事なことで、論理の誤りがある。会社でも政治でもよくあることだ。
 それは、Aが悪い→Bが良い、という直結思考だ。危険なことは、Bも悪いかもしれないことだ。また、Aを改革するという選択もある。
 現在ある各競技団体の上に屋上屋を建てるようなもので、人材と金をどうするのか?
 何事を改革するにしても、こういう未消化の提案は危ない。

 私はNCAA日本版には反対する。起きている不祥事の改革にはつながらない。今は大学の理事会に運動部専門の理事を選んで、大学が改革すべき時だ。
(完)


  


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2018年8月9日木曜日

#199 消えた台湾主催の国際スポーツ大会―なぜIOCは中国の言いなりか

日本のメディアは報道しなかったが、来年8月に台湾の台中市で開催予定だった「東アジアユースゲームズ」が中国の横槍で中止になりました。
 背景には中国政府の「中国台北」の表記を要求し、台湾政府が「台湾」表記にこだわったからです。
 私は台湾表記問題について詳しい論文を用意していますが、いずれ月刊誌に出たらお知らせします。

「一つの中国」にトランプ大統領がアドバルーン
 トランプ大統領が就任して間もなく、「アメリカは一つの中国にこだわらない」と声明して中国政府を刺激した。しかし、その後はだんまりで実行は何もされていない。
 そう、この大統領の得意技はアドバルーンを揚げることと、自画自賛の二つで、実際には、くすぶっている世界の問題を表面化しても実行力に乏しい。
 私は世界の世論が盛り上がり、台湾問題が認識されることを期待したので、大統領の空振りに失望した。
 しかし、米議会が米台両国の政府高官が自由に行き来できるように台湾関係法を成立させたことは一歩前進だ。

民間は支援できる
 日本政府が中国政府の政策に反対できない立場はやむを得ないとしても、日本の世論も台湾問題に無関心で、メディアも逃げていることは情けない。少なくとも我々民間人は立ち上がることはできる。
 中国政府にとって台湾は南シナ海を領海化するのに重要な立地だから、台湾の独立は絶対認めることはできない。しかし、中国の国民はどう考えているのか?

読売新聞が報道
 読売新聞が8月5日のコラム「ワールド ビュー」で台湾の国際大会中止について詳しく書いている。見出しに政治干渉と書いた。北京支局の中国報道に制約をかけられるかもしれないのに、日本のメディアとしては思いきったことだ。
 8ヵ国で構成される東アジアオリンピック委員会の会合では、「チャイニーズ・台北」の表記に台湾が反対、日本は棄権した。中国に金縛りされている韓国、北朝鮮、モンゴル、香港、マカオは賛成した。

なぜ「チャイニーズ・タイペイ」なのか?
 1981年、IOCが台湾に対し、「チャイニーズ・タイペイ」で参加することを認めたことで、37年も経っているのに、IOCは中国政府の言いなりのままだ。せめて「チャイニーズ・タイワン」で妥協できないものか。

「一つの中国」がスポーツも支配
 中国との経済関係に配慮して台湾でも独立を主張する勢力は弱い。まだ多くが現状維持を求めている。
 それでも呼称変更については台湾の多くの人が望んでいることだから、日本は民間から支援すべきだ。私はいつの日かトランプ大統領が「一つの台湾、一つの中国」を唱えてほしいと願っている。
 
日本ボクシング連盟の山根前会長
 企業、省庁、大学からスポーツ団体まで不祥事が相次いでいる。
 私は週刊誌やテレビのワイドショウが取り上げるホットな話題を本稿で書かないようにしているが、今回は山根組長の件に悪乗りしてみたい。
 先ず、あんな独裁者をよく出したものだ。子分理事たちは世論の批判を浴びていても、理事会で彼の退任を決議できなかった。企業なら取締役会で会長の解任を決めるだろう。
新聞もテレビも報道だけでなく、解任する論評を出してほしかった。独裁者を生む素地はどこにでもある。これが恐い。
 ほかにも、例えば、省庁の外郭団体や公益法人でも独裁者がいるはずだ。
 第二に、彼には違法行為がいくつかあるのに、なぜ警視庁か東京地検が捜査によって彼の逮捕に動かなかったのか?
 第三に、理事たちにも責任があるのだから、なぜ総辞職の声が出なかったのか?新会長が誰になったところで、現理事たちではもともな改革はできない。新会長の英断に期待したい。

アメリカでボクシング禁止
 話は古いが、1980年代末にアメリカ人の世界チャンピオンからパンチを受けた韓国人選手が死亡する事故が起きた。これを契機にテレビのスポーツキャスター、ハワード・コーセルがボクシングの廃止を唱え始めた。彼は著名なキャスターだったから、影響力があり下院で公聴会が開かれるまでになった。議員が危険なスポーツは他にもあるが、なぜボクシングだけなのか?と問われて次のように答えた。
  「もちろん、危険なスポーツは他にもあります。しかし、ボクシンクを除く他のスポーツで、死傷者が出るケースはすべて百パーセント事故によるものです。ところが、ボクシングでも死ぬのは事故であるかもしれませんが、実際には選手は初めから相手にダメジを直接与えるために闘っているのです。ダメジを与えることそれ自体が目的なのです。しかも自分の放つパンチが相手を死に到らしめる危険があることを、選手は承知しているのですよ。もはや今日の形のままでボクシングを続けさせるべきではないと思います」
 (以上は拙著『蘇れ日本のスポーツ』1986、大修館書店からの引用。本は図書館にある)
 残念ながらボクシング大国アメリカでは彼に同調する世論は少なかった。
 かつてアマチュアボクシングでは選手はヘッドギァを着けていたが、今は着けない。なぜなのか?                  (完)


追記、8/12。一つ書き忘れたことを追加します。
中国政府の中国民用航空局が4/25に世界の航空会社に対し、「台湾」を「中国台湾」に表記を変え、地図上で台湾を中国大陸と同じ色で塗るように強要した。日航と全日空のほかアメリカの航空会社は台北など都市名に変えることにした。

 大きな国が小さく見える。


  


 

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