2010年10月30日土曜日

#40 続編・中国問題ーー中国の将来はどうなるのか?ーー

 前回に続いてもう一回中国問題について書きます。お断りするまでもなく、私は中国問題の専門家ではありませんが、自由な発想を書いて皆さんの参考に供します。
 私の中国情報源を言いますと、北京に引退した農業学者の中国人と、上海に日本企業の商社経営者(何十年もの中国専門家)の二人がいます。しかし、中国政府の情報「制御」によってホームページもブログも開けないので、私から控えめにメールを送るという片側通行ですから、ホンネを聴けるのは会った時だけに限られます。それに台湾の友人との自由な交信です。ホンコン駐在のアメリカ系テレビの経済専門家がいますが、あまり交信していません。
 今回のように大きな問題が起きた時には、インターネット検索でタイ、ベトナムなどアジア各国の英字新聞を集中的に読みます。日本では主として全国紙を参考にしています。
 さて、若者諸君の時代には中国はどうなっているでしょうか?

中国はいずれ財政危機に陥る
 私の考えでは大国経済の高度成長はいつか止まる。中国も例外ではないだろう。
 これまで沿岸部を優先開発して1億人と言われる富裕層をつくり、彼らが払う税金によって潤沢な国家の歳入を得てきた。しょせん金持ちは貧者の上に成り立つ少数派であり、彼らからの税収にはいつか限界が来る。もう一つ、安い人民元のお陰で巨額の貿易黒字が政府の資金になっている。
 しかし、歳入の伸びが鈍っても歳出の増大はもう抑えられない。思いつくだけ政府の歳出を挙げてみよう。

   *人民解放軍220万人、予備役50万人、武装警察70万人の維持。
   *巨大な中央政府と地方政府の重荷。
   *急速な建艦、宇宙開発、海洋進出。

     (前回で海上保安庁の尖閣に新巡視艇配置を提案した が、最近の
報道では中国は漁業 監視 船だけでも30隻を建造するという。
とてもかなわない)
   *世界中でエネルギー資源と国策による企業買収に投資。
   *途上国へのばらまき支援。
   *全土に広がる高速鉄道、高速道路、僻地の自動車道路建設と維持保守
   *水路整備など農業振興。
   *未整備の医療福祉制度。

     (健康保険や年金の制度にいかに金がかかるか。日本の現状をればわかる)
   *北朝鮮への経済支援

中国の人口対策としての移民政策
 私の憶測では中国政府は、1子制限政策に加えて13億人の人口を減らすために国外移民政策を取っている。政府は食料も農地も仕事口も人民を国内では賄えないと判断しているのではないか。
 なぜか?例を三つ挙げてみよう。
 一つ目は、中国のアフリカ援助で、インフラ整備でも鉱山開発でも彼らは技術者のほかに数百人の中国人労働者を送り込むことだ。それに伴って、中国レストランや雑貨屋の商売をするためにさらに中国人が移住する。その後親類縁者を呼びよせる。当然、現地人の雇用をほとんどしないので、批判を受ける。それでも今後も世界中にチャイナタウンが増えていくだろう。この移民式支援は他国の支援に例を見ない。
 二つ目は、話は古いが、移民式支援の原点と言える例だ。1970年代にタンザニア鉄道の建設に10万人もの中国人労働者を送ったことだ。彼らは現地に穀物や野菜の畑をつくり、現地で自給自足体制をつくったというスケールの大きさ。なんと中国人の逞しいことか。それ以後も中国人は酷暑のアフリカに出かけて行くことをいとわない。それだけ国内事情が厳しいということだろう。今、職がない日本の若者はとてもアフリカには行かないだろう。
 三つ目は、チベットやウイグルの辺境の地に多数の漢族人が送り込まれていることだ。ロシアも事実上植民地支配をしていた周辺国にロシア人を送ってきた。かつて帝国主義時代には、ヨーロッパ諸国も日本も同じことをやってきた。私は本国人を送り込み、言語と文化を変えるという植民地支配の常套政策を中国も取っているのだと思っていたが、かつての帝国主義諸国が送った本国人の割合は10%くらいであったのに対し、中国のそれは50%を超えていることから、これは本国の人減らしだと思うようになった。

インターネット紅衛兵はどれだけ知っているか?
 その一。尖閣諸島は明治時代の1880年にはすでに琉球の一部として住民が住んでいた。日清戦争はその後の1884年であるから、この戦争で併合したということは事実に反する。中国が突然自国領土であると主張し始めたのは、1971年のことだ。ネット紅衛兵は知っているか?
 その二。日本の中国に対する無償供与と低金利融資ODA援助は、小泉政権時代に打ち切られるまで長く続いた。中国政府は金利とともに返済したと言うが、早い話、30年前と返済時では貨幣価値が桁違いなのだ。中国政府は日本から資金援助を受け、インフラ整備をしてきたことを公表していない。中国政府は日本から支援を受け、その一方でアフリカ支援をしてきたのだ。最近の例では、今回のデモが行われた重慶のモノレールも日本のODA資金で建設された。ネット紅衛兵は知っているか?
 その三。今年GDPで世界2位になる経済大国であり、しかも国連常任理事国である中国は、国連分担金を日本の1/4しか払っていない。これを知っているか?

 まあ、情報を与えられない紅衛兵が知らないのは仕方がない。しかし、日本に来ている中国人留学生は知っているだろうか。

中国政府の政体支持と政策は別
 ネット紅衛兵による反日デモで鎧の下にちらちら見えていた自国の政府批判が表に出てきた。彼らの対日理解のレベルを見れば、中国政府の政策をどこまで知っているか怪しい。紅衛兵諸君、こんな程度では国家の歳入に貢献しない、つまり税金を払わない諸君が棄民のように扱われて国外の労働に送られかねないよ。
 最近、本稿で前回の中国論#39を読んだ知人から、「あなたは中国政府支持者ではなかったのですか?」という質問を受けた。私の考えを記憶してもらっていたことが嬉しい。しかし、彼の認識は少し違う。私は中国政府の政体を支持しているのであって、政府の政策をすべて支持しているわけではない。
 説明すると、私は中国政府の政体を会社民主主義CompanyDemocracyと呼び、他の独裁者国家と区別している。それなりに英才が熾烈な競争を経て国のリーダーが選ばれるのは、会社で競争に勝ち抜いた取締役の中から社長が選ばれる体制と同じだからだ。しかも国家主席には1期5年、長くても2期10年の任期がある。私は先進国型民主主義より途上国には会社民主主義の方が建国の基礎を築くのに現実的であると信じている。言うまでもなく、リスクは伴う。
 かつて中国政府による天安門事件の弾圧をやむを得ぬ処置として消極的に支持し、会社民主主義を唱えたことに、アメリカでも日本でも非難を受けた。しかし、この考えは今も変わらない。
 先進国型民主主義を中国が実現するには、国全体の民度が高まらなくてはならない。つまり自由な教育が根付かなくてはならない。まだまだ時間がかかる。

追記。中国が首脳会談中止
 今朝この稿を書き終わってほっとした後、朝刊を手に取ると、一面で「日本側は、中国の主権と領土を侵す言論をまき散らした」として日本を強く非難し、ハノイでの首脳会談をキャンセルしたことを伝えている。中国政府は反中国世論を日本政府が陰で操作していると勘ぐっているのだろう。おそらく日本の世論形成に政府が関与していないことを知っていて彼らが国内対策を行っている。
 日本政府は、弱腰も強腰もないことを認識し、中国政府が近寄ってくるまでじっと耐えて内政に注力すべきだ。戦争を回避するような外交ではないのだから。ここにも中国政府の苦しい内政が出ている。
 私も前回と今回の稿で中国の主権と領土を侵す言論をまき散らしたことになるのか。


 

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2010年10月24日日曜日

ネット月刊誌『言論大阪』#7,11月、2010

  大阪市開発と二重ブランド

 
             経営評論家・岡本博志

22日に全国紙が、「なにわ3大拠点集客合戦」という見出しで、あべのキューズタウン4月開業、と報道した。大阪市が1976年から進めてきた阿倍野再開発事業で、目玉となる最大の商業施設だという。
 私はせっかく天王寺地区を視察しながら、うかつにもこの目玉を知らなかった。自分のことを棚に上げて言うと、府民や大阪市民がどれくらい知っていただろうか。
 あべの、阿倍野、天王寺とばらばらになっているような呼称は、企業なら放置しておかない。
 今回は、まだ読まれていない読者のために、ちょうど1年前『若者塾』の#19で書いた「大阪市開発と二重ブランド」を転載することにした。

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 先日、家内と長谷寺にお参りも兼ねて紅葉見物に行ってきました。
 私は大阪南部の鉄道をよく知らないので、往きは近鉄大阪線、帰りは橿原神宮駅から南大阪線で阿倍野橋駅に出て一周してきました。南大阪線は初めて乗ります。JR天王寺駅は天王寺区、道路一つを隔てて阿倍野橋駅は阿倍野区に属しています。
 今回はここから発想を得て、二重ブランドについて書きます。大阪の地方問題でありますが、全国の読者にも大阪について知ってもらう機会になるとよろしいですね。

◇大阪市には現在梅田北ヤード、南港・咲島・夢島など巨大開発プロジェクトが計画されている。阿倍野地区開発も建設中の近鉄百貨店の高層ビルを中心に再開発が進められる。
 さて、天王寺と阿倍野とはどこなのか?東京でもどこでも府外の人たちにはどっちがどっちなのかまったく知られていない。それどころか、私も含めて大阪の住人にも区別がつかない人は少なくないだろう。
 歴史を紐解いてみると、1889(明治22)年に天王寺村と阿倍野村が合併されている。現在は天王寺区の南隣が阿倍野区で、このためJRと近鉄の駅名が別になっている。天王寺と阿倍野、これは天王寺地区とも阿倍野地区とも総称して呼ばれないことが現実にある。ビジネスで言えば、二重ブランドになっているのだ。
 地元経済界は知名度を上げるキャンペーンを進めると言っているが、現状の二重ブランドではどうにもならない。市外では天王寺の方が知名度が高い。もう一度天王寺区と阿倍野区が合併して天王寺区に統一すると良いが、改革を論理で考えない阿倍野区住民が感情的に反発するだろう。もう一つの問題は、天王寺区も阿倍野区も南北に長い行政区になっており、このまま合併するより、隣接する浪速区も含めて行政区域の線引き変更が良いと思う。従来のしがらみを超えて、次世代のため、大阪市100年の計のために統一ブランドをつくってほしい。

 松下電器が歴史ある社名を捨てて、ブランドのパナソニックに社名変更したことに驚いた。社名をブランドに統一することは時代の流れであるにせよ、本当に大胆な決断だった。天王寺を「東京の新宿」に匹敵する地位を確立するために、大阪市も決断できないはずがない。

◇そもそも天王寺の地名は四天王寺から由来している。四天王寺は聖徳太子により593年に創建され、日本最古の寺の一つで立派な伽藍配置は他のモデルになってきた。後に天台宗派になったが、現在は和宗と称して独立している。
 寺町になっている周辺を緑化などで一体化すれば魅力が増すだろう。寺と言えば京都とされるが、大阪駅から地下鉄谷町線か環状線で便利に行けるから、四天王寺にも全国の皆さんが訪ねてほしい。
 因みに、比叡山延暦寺は789年、高野山金剛峯寺は816年に創建された。

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2010年10月12日火曜日

ネット月刊誌『言論大阪』#6,10月,2010

 大阪市は大き過ぎない、大阪府が小さいのだ――橋下知事と平松市長に論点整理を望む――

                     経営評論家・岡本博志


 大阪都構想は橋下知事が新たに提唱したのではない。私が知る限りでは、すでに府や財界が以前に大阪都構想を提唱していた。これに対し、大阪市と学識経験者からなる大都市制度研究会が大阪特別市構想を掲げて議論し、03年に報告書をまとめている。
 それ以後には表立った動きはなかったが、橋下知事が就任後間もなく大阪都構想を強く提唱してにわかに府と市の間で熱い議論を展開することになったのである。橋下知事が指摘する府と大阪市の二重行政の無駄は目につくが、だから大阪市や堺市を解体して区割りし、大阪都が一元的に全行政を担うという結論には論理の飛躍がある。
 ここでは多面的に全体を見ることによって、両者の主張の問題点を明らかにしてみたい。

なぜ大阪府だけが大阪都にするのか?
 大阪府の特異性について指摘されることは、狭い府内に大阪市と堺市の二つの政令指定都市があることだ。堺市が政令都市になる前には府政が及ばない大阪市が府のドーナッツになっているから、これが二重行政の根源だと言われた。今はドーナッツが二つになった。
 狭い面積の府に二つの政令都市があり、しかも隣接していることは決して府行政のあるべき姿ではない。次世代のためにも何か改革しなければならない。ここまでは知事の改革を支持できる。他方、隣接する横浜市と川崎市の二つの政令都市を抱え、県域も小さい神奈川県では、なぜ神奈川都構想が議論されないのだろうか?
 知事は東京都を意識している。しかし、東京特別23区はかつて首都東京市であり、同時に東京府という県制があった歴史がある。それが戦時中の1943年、東京府と東京市が統合されて、今日まで至っている。区長が公選制になったのは1974年のこと。
 
二重行政は府が過半の責任を負う
 知事が唱える府と市の二重行政の過半は府の責任だ。例えば、大阪市内に府立の施設を建設してきたのは、多分に大阪市選出の府会議員が推進してきたのだ。
 府庁移転については、私は府の施設として経営困難にあるりんくうタワーへ移転することによって、府の行政を大阪市と分離するきっかけにすることを提唱していたが、結局、大阪市の破綻ビル、WTCに移転する方向にある。さらに、府議会もりんくうタワーの一部を多目的に使える議会場に改築し、同時に現状の府議会議員を廃止して府下の市議会に常任府政委員会を設置することで、各市会議員が新府議会で府政のチェック機能を果たすことを提唱した。二重行政を改めることができる。

不祥事は大阪市が大きいせいではない
 先週、知事は大阪市を分割して大阪都特別区に再編することを取り下げた。大阪市の名前を残すことにしたのである。私は大阪市が統治するに決して大き過ぎるとは思わない。むしろ、本稿『言論大阪』#3,7月号で、大阪市が周辺の都市と合併すねことによって大大阪市に拡大することを提唱した。
 これに対し、「なぜ堺市と合併しないのか?」という意見が寄せられた。私はこの意見を予期していたが、それは中世以来の自由都市としての歴史による堺市民意識から、簡単には合併が実現しないと思うからだ。私の提唱や意見に対し異論を聴けることは本当に嬉しい。
 そもそも関前市長が手を付け始めた職員による不祥事の大掃除は、まだ道半ば。今も不祥事は後を絶たない。麻痺した綱紀の引き締めもちょっとやそっとでは進まない。きつい言い方をすれば、常習の窃盗犯がつかまるまで悪事を止めないようなものだ。市民は腹を立てているし、知事もそうだろう。しかし、大阪市が大き過ぎることと結びつけるのは論理の飛躍だ。

大阪府は奈良県と和歌山県と合併して関西県に
 「関西は一つ」とか「京阪神の連携」という言葉は何十年間も使われてきた。掛け声倒れとはこのことだろう。私は、現実には「関西はばらばら」だと思う。「関西州」にしても、兵庫県も京都府も各々が独立独歩だからいつ実現するか分からない。
 「関西州」に私は反対しないが、その第一歩として大阪府と奈良県、和歌山県が合併して「関西県」をつくることを提唱したい。「関西州」はその先でよい。
 私は47都道府県などとややこしい表現は止めて、東京都も含めて全県と言えるように改革を求めた。地方自治の月刊誌『晨、あした』(ぎょうせい刊)「出戻り市民の地方自治異見」の連載を書いた中で、95年10月号で大阪府は大阪県に、京都府は京都県に、そして北海道は北海道県に呼称変更することを初めて提唱した。北海道県は、例えば、鹿児島県が県を取って鹿児島の呼称で地域の名前としても広く使われるのに対し、現行の北海道から道を取った北海は地域名として使うことができない。「道州制」の呼称も北海道州にすることで、「分権州制」または「自治州制」に変えるべきだ。
 改革のささやかな試みとして、よそ様の県名を勝手に変えることは失礼と思い控えてきたが、ここ10年来、私の年賀状には自宅住所を大阪県と印刷している。
 因みに、明治政府による廃藩置県が行われた時、当時主要な大都市圏であった東京、大阪、京都の三つだけは県ではなく、府という呼称にされた。なんと古い歴史を引きずっていることか。
さて、関西県には障害がある。それは大阪県と接する県の知事はすべて中央省庁の出身であることだ。兵庫県知事と京都県知事は自治省、奈良県知事は運輸省、和歌山県知事は通産省という完璧な官僚知事包囲網だ。
 今こそ、民間人出身の知事に置きかえるには民力が必要だ。

平松市長と橋下知事の任期中が改革好機
 平松市長は橋下知事より21歳年長である。
 年齢差ばかりではなく、二人の違いにはどこか味わいがある。大田知事と磯村・関市長時代には会うこともなく、口もきかなかったことに比べれば、今の二人は反発し合っていても相手を受け入れている。実際、よく会っている。
 知事が論理を基礎に置き、果敢に花火を打ち上げて改革の突破口にする攻めの突撃隊長とするなら、市長は鷹揚に対応する受け身のタイプ。市長にすれば、「またあのヤンチャ坊主が余計な口出しをしよる」と腹を立てているだろうが、それでも知事を許している。
 知事の個性は天性かもしれない。人に腹を立てさせても憎まれないところがある。あれくらいの府政改革なら私にもできると自惚れているが、あの流儀でやれば嫌われてつぶされるだろう。
 どちらも民間出身であることは、大阪史では奇跡みたいなものだ。この好機に二人がじっくりと論点を整理して次代の大阪行政のあるべき姿を見せてほしい。
                                 (完)

≪追記≫神奈川県の知人から指摘がありました。神奈川県には相模原市も政令指定都市であります。

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2010年10月3日日曜日

#39 とうとう露見した中国政府の本性ーー諸君は将来をどうするかーー

 ブログとは何なのか?これからはブログよりツイッターの時代なのか?
 こういう疑問に応える意見が知友人から寄せられます。私も自問しています。しかし、私のブログには目的があるので、ブログを変えるつもりはありません。ただし、なんとかもっと面白くしたいと念じています。
 私の目的とは?それは今から10年後に『友よさらば、若者よさらば』というタイトルで本として出版するために、書いているのです。多分、有力出版社は取り上げてくれないから、自費出版の予定でプロかセミプロに原稿の選別と編集をやってもらいます。私は家族葬にする代わり、500部を世話になった知友人と交信がある若者に遺作として送ります。
 20数年前、もの書きを始めた時、生涯に10冊の本を世に出すことを決意してから、これまで6冊が刊行されました。遺作は最後の10冊目になり、残る3冊をやり遂げたいと思っています。
 私のブログは、喩えれば、大手の系列映画館が作品を上映してくれないので、小さなミニシアターで自主上映しているようなものです。

 さて、今回は今ホットな中国問題について私の発想を諸君の参考に供します。いつも長過ぎという不評を知りつつ、今回はいつもより長くなりました。まとめて書いておかないと発想が逃げてしまうので。悪しからず。

 中国政府が戦略を一段と進めた

◇ 中国政府は機会を狙っていた
 中国政府はこれまでずっと尖閣島周辺に漁業監視船と何十隻もの漁船を送り続け、日本政府がどんな対応をするかを伺っていた。中には漁船が日本領海内まで侵入し、海上保安庁の巡視艇が警告を超えて違法操業していた中国漁船の一隻をつかまえたことで、一気に外交問題化した。挑発していた中国政府と、どこかで国家としてけじめをつけなければならない日本政府との対立だ。

◇ 対中強硬派と目される前原外相への先制パンチ
 代表選挙で親中派の小沢候補が敗れた結果、新内閣で前原前国交相が外相に就任した。 中国政府は対中強硬派と見られる新外相と、新任の丹羽大使に対し、中国の外交権益を通すために先制パンチを放ったのだ。
 ニューヨークでの温家宝首相と前原外相の演説には大きな違いがあった。国際的に温厚なイメージを与えている温首相は、尖閣が中国固有の領土であることを人差し指を振り上げて行った演説は強力だった。アメリカでは、おそらく国際的にも、人差し指を振り上げることはけんか腰と見られ、マナーに反する。私もスピーチセミナーでこのように教えられた。温首相は知っていてけんか腰のジェスチャーを取ったのだろう。これに対し、前原外相のコメントはいかにも弱かった。「尖閣には領土問題は存在しない」ではまったくアピールしない。彼には「中国は70年代から急に尖閣の領土化を主張し始めた」ことを中心にして歴史的経緯を明らかにする論文をアメリカの有力紙に寄稿してほしい。

他のアジア諸国への警告
 中国政府の戦略には対日攻勢を超えて他のアジア諸国への警告がある。中国は南沙諸島と西沙諸島に関してベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、台湾の諸国と領有権を争っている。今回の日本との紛争を見せしめにしてこれらの国を力づくで抑え込むことになるだろう。中国とはうかつに争えないということになり、手足を出せないことになりそう。
 ごく最近、尖閣よりはるか遠い南沙諸島に最新型の武装漁業監視船を配置するなど、支配海域を拡大する中国、どこまで軍事予算をつぎ込めるのだろうか?

中国政府は中国海軍に突き上げされている
 人民解放軍は今も正確には国軍ではなく、共産党の軍隊である。あくまで共産党政府の文人支配下にあるが、いつまで軍を抑えられるかは分からない。今でも政府は海軍から突き上げされているかもしれない。
 陸軍はチベットやウイグルなど少数民族による暴動を弾圧して存在感を出せるし、空軍は有人衛星の打ち上げや宇宙の軍事目的開発によって存在を誇示できる。しかし、これまで海軍は戦果がなく、存在感が薄い。
 軍人のトップというものは野心の呪縛から離れられないものだ。彼らは「ハワイの東はアメリカ、西は中国で支配しよう」、「中国はいくらでも兵士の充足をできる」とか豪語したとか。

空母の保有も彼らの宿願
 中国海軍は中古の空母をロシアから購入して技術習得をしてきた。ソ連時代、巨大な空母をアジア各国に派遣し、その威容で圧力をかけた。しかし、実際には艦載機を飛ばせなかった。戦闘機が艦から発進する時に必要なカタパルト(火薬か高圧蒸気によって加速度をつける)の技術が不足だったという。
 世界最大の空母保有国アメリカは10艦が就航している。トム・クルーズ主演の映画「トップガン」では空母を詳しく描いていたが、カタパルトは見せなかった。絶え間ない戦闘機の発着訓練を要する空母の維持には巨額のコストがかかる。最新型のロナルド・リーガンは本体のほか通信設備、戦闘機を始めとする艦載飛行機、ミサイルなど兵器を含める総建造費は2兆円以上になるそうだ。なんと日本の年間防衛予算の半分だ!
 あまりに銭食いの空母は、かつて2艦保有していたフランスは退役した後の新空母の建造は止まっているという。軽空母を保有していたイギリスは現在新艦の建造を計画中というが、どうなるか。
 中国は建造と訓練に巨額のコストがかかる空母を、それでも建造しようとしている。将軍たちの野望を止める術はなさそうだ。

ガス田開発は隠れ蓑
 私の八卦見では、中国が領海域のぎりぎりに建設したガス田設備は、資源開発を隠れ蓑にしている。本土からあれほど離れ、しかも商業ベースに合うほど埋蔵量があるのか疑問がある。実は、尖閣取りの目的のために、領海域に実効支配の楔を打ち込んだのではないか。日本との共同開発は彼らのポーズだけかもしれないと警戒が必要。
 もし海軍が太平洋進出する意を受けて、目の上のたんこぶである尖閣海域に、日本の出方を封じるために、戦闘艦を配備すると装甲も火器も弱い日本の巡視艇では抗することができない。海上自衛隊の護衛艦(駆逐艦)が出たところで、中国海軍は攻撃してこないことを知っている。
 まして、中国にはドンパチは朝飯前であり、海上自衛艦は武力衝突を避けなければならない。中国はこれまで国境紛争においてインド、ベトナム、ソ連と交戦してきた。

毛沢東と文化大革命の悪夢
 かつて1966年から3年間、毛沢東派と紅衛兵による文化大革命の騒乱が吹き荒れ、中央政府が内政の統治を失った時代があった。滞米時に中国人の女性作家が書いた中国東北部の家族史である小説”WILD SWAN”がベストセラーになった。大部の本を英語で読むことに苦を感じさせないほど、文化大革命のすさまじさが描かれていた。
 中国政府は紅衛兵の悪夢をよく知っているのだろう。今はインターネット紅衛兵が暴れて政府の統治を脅かせている。中国政府は時にネット紅衛兵を泳がせ、時に抑制するという戦術を使い分ける。内政に多くの問題を抱える政府にとって、対日外交で 一歩でも退くことは権力内での地位保全を揺るがすことにつながりかねない。守勢の日本政府と攻勢の中国政府では緊張感が違うので、日本政府の対応はどの政党の政府にも苦しい。

 鬱積した感情を日本人はどう処理するか 

中国の外交戦略
 中国海軍が太平洋に自由に進出し、大陸沿岸の広い海域を支配することが現下の外交戦略の基本であるだろう。対外的には、日米と時に対立をしながら、ヨーロッパ大国とロシアとの間で協調関係を保つことだ。
 中国市場に出遅れたロシアは急に中国に接近し、中国政府の領土支配を支持することで、北方領土問題を牽制することを意図している。彼らには小手先であろうが、何であろうが、ことに付け込むことにためらいがないことだ。さらに、両国に共通する点は、領土問題の歴史について自国民にまともな教育をしていないことだ。

日本の対中外交
 一つは、中国と国境を接する諸国、モンゴール、カザフスタン、ベトナム、ラオス、タイ、ミャンマー、インドと友好関係を深め、中国包囲網をつくること。中国はベトナムに鉄道建設の援助を計画しているが、これで経済関係を進展させて中国の影響下に置く目的が見え見えだ。最悪の場合、中国と直結する鉄道が兵員と兵器を運ぶ軍用列車に使われる。
 二つ目は、南方海域の護衛のために、海上保安庁と海上自衛隊の艦船を大型化し、装甲の武装を強化すること。中国海軍はこれを上回る艦船をつくるのに、さらに金を使わなければならない。外交は武器を使わない戦争であるが、武力で守ることも外交なのだ。
 三つ目は、最近よく言われるように、日米安保条約に従い、集団的自衛権を実行できるように解釈を変えること。中国政府に外交的圧力を高められる。

政経分離は至難の業
 かつて日中国交回復以前には政経分離という言葉が使われた。最近の日中関係ではそうは行かない。経済においては、日本が中国に依存する度合いと、中国が日本に依存する度合いに大きな違いがあるからだ。悔しいが、日本経済は中国市場なしでは成り立たないほどの関係が現実だ。
 もう一つ、最近使われなくなった言葉がカントリーリスクだ。これは投資先国にある政情不安、法整備、労使関係などの要素について投資の危険を分析することだ。私が専門にする中小企業の中には、中国に対しては「それ行けどんどん」で走ってきた例が少なくない。緊張感に乏しい印象を受ける。       

 フジタの社員が逮捕された時、なんと緊張感に欠けることよ、と思った。この外交トラブル下に、4人がカメラであちこち撮影していたというのだ。帰国した3人が記者会見で「軍事施設区域に入ったことを知らなかった」と言ったことは、まだ一人が人質になっているから、信用性を疑っているが、彼らが政治に無頓着なビジネス馬鹿と言われても仕方がない。
 報復は中国政府の体質であることをしかと認識すべきだ。

メディアに出る声、周囲の声
 なかなかすごい意見がある。
 「日本人は中国に旅行に行くな」
 「中国人旅行者の訪日を受け入れるな」
 「東京の中国大使を深夜に呼び出せ」
 「中国政府は、なんでも日本が悪い、と言うのはけしからん。毒ぎょうざ事件でも日本が悪いで、まだ謝罪もしていない」
 「漁船の破損に対して謝罪と賠償だと。ふざけるな」
 「日本にいるパンダを追い返せ」
 日本人が腹を立てていることは中国大使館が情報収集しているから本国に伝わっているだろう。それにしても、パンダに八つ当たりはやめよう。パンダに罪はないのだから。

 結び

 東アジア情勢は諸君の時代にはどうなっているでしょうか?
 諸君は中国に対してどう思っているのでしょうか?
 おそらく私の世代とは違うでしょう。私の世代には中国に親しみを持つ人たちが少なくないのです。というのは、私たちは小川環樹や吉川幸次郎(二人とも故人)の中国学者が書いた岩波新書を読み、漢文で習った論語に馴染んだ世代で、昔の中国に親しみと尊敬の念を持っているからです。今の中国人に対しては中国政府と中国人、中国人の善し悪しを区別します。
 諸君も中国政府と中国人を区別して感情を抑制してほしいと願います。今の中国政府は小さい、小さい。だから諸君には、日本人には大人(たいじん)になってほしい。ゆめ中国人観光客や留学生に不快な思いをさせるなかれ。ネット紅衛兵の来日も歓迎しよう。
 すでに、日本も核兵器を開発すべきだ、という意見がくすぶっています。小国の北朝鮮が各兵器とミサイルで大国中国を振り回していることから、将来にはもっと高まるかもしれません。
 核兵器とミサイルを持つのに、日本は基幹の技術をほとんど保有しています。しかし、先進国で技術大国の日本であっても、諸君たちは核兵器の開発には反対してほしい。核兵器を持たないことは、日本が世界で立つための平和哲学なのです。
                                   (完)

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