2015年2月12日木曜日

#132 「ええかっこし外交」にブレーキを――武士の心を忘れたか

 二人の日本人がイスラム国に殺されました。私も二人のご冥福を祈ることでは人後に落ちないが、「情」の部分は今さておいて、「理」につくといろいろ考えさせられます。
 諸君はどう思いますか?
 
本当のところ人は戦闘が好きなのか?  
 
 1980年代中頃のこと。アメリカのテレビニュースが連日ニカラグアの内戦について報道していた。ソ連が支援するサンディニスタ革命政府軍と、アメリカが組織したコントラ反政府軍が激しい戦闘をしたので、「コントラ戦争」と呼ばれる。  
 詳しいことは省いて、私が発想したことについて述べる。批判されるだろう。  テレビニュースには、どちらの軍でも小学校の年代の子供たちが、手にした小銃を空に向けて喜々として撃っている映像が何度も出た。ある日、私は彼らが命の危険を認識せず、戦闘に参加することが面白いのだろうと思った。
 3食(2食かも)が当たる、学校に行かなくてもいい彼らにはエキサイティングなのだ。一発の弾が数百円もすることなど気にしない。バンバン撃つ。私なら仲間たちと木でつくったおもちゃの銃で戦争ごっこをしていた年齢だ。
 大人の兵士も似たようなもの。人を撃つことが面白いに違いない。
 以来何十年、世界中で内戦が止むことは無い。  
 
イスラム国の外国人兵士たち
 
 世界の80ヶ国から2万人もの若者がイスラム国に加わっているという。全体の1/3か1/4になるのだろうから恐ろしい数だ。なぜ外国人が加わるのか?
 マスコミが伝えているように、彼らは自国で職が得られず、将来に希望を持てない状況に置かれているからだろうか。また、彼らの多くは各国に移住したイスラム系移民か、その子供(二世)だと言われる。どの国でも顔に髭を生やし、モスクに行って祈る姿は容易にコミュニティに同化できない。
 明治以後多くの日本人が北米や南米に移住した。例えば、アメリカには戦前の貧しい時代に沖縄や和歌山から移住した。少数グループへの人種差別があり一世たちは大変な辛苦を味わさせられた。
  韓国人のアメリカへの移民は朝鮮戦争後に急増した。難民としてアメリカ政府が受け入れた移住者も多かった。彼らも長い間人種差別のためにまともな職を得られなかった。
 両国の移民に共通する点は、中国人ほど自分たちのコミュニティをつくらずに社会に同化し、そして何よりも一世の親は貧しい生活に甘んじて子供の教育に賭けたことである。
  滞米中のこと、シカゴの寺で講演をする機会があった。一世の高齢者が主な聴衆であったが、今では成功者の部類に入る彼らの顔つきは、苦労の年輪を刻んだような険しい表情に緊張を覚えた。  講演後の懇親会では「今の日本企業駐在員は始めから良い家に入り、新車を乗り回せる」という声を聞いた。バブル期のことであり、私が日本企業から初めてアメリカに出張した時には駐在員でさえこんな恵まれた生活ではなかった。
 いずれにしろ、先人の苦労の上に新しい世代は成り立っている。まして移民少数グループが一代で成功することは難しい。  
 外国人兵士たちは、イスラム国に何を期待するのだろうか?  
 支配されていると感じる現状から逃れてイスラム国に組すれば、一般市民の上に立つ支配者グループになれると思うのか?
 しょせんイスラム国の兵士になったところで、幹部にはなれないし、使い捨てにされるだけ。運よく生き長らえても、戦闘の緊張感と興奮を経験すると、地道で退屈な仕事をやる気がしない。このダメジも大きい。
 日本の兵士志望者に私のメッセージは届かない。せめて諸君の周囲に気をつけてほしい。

「生命第一」の中味が変わる  

 ホンネを出せないマスコミに比べると、私の周囲は冷静に見通していた。

  1)湯川さんは殺される。軍事会社の社長という肩書は知られていただろうから、解放する筋が通らない。
 2)ヨルダンのパイロットは殺されていた。解放すればまた戦闘機で舞い戻ってくるから生かしておけない。  
 3)後藤さんは交渉道具に使われたあげく殺される。パイロットと日本人の交換には道理がない。イスラム国は交渉にならないことを読んでいた。

   後藤(以下敬称略)は生前の活動が高く評価されていたから、一身に同情が集まる。し かし、友を救うという目的で天候が荒れ模様の冬山に単身で登ったようなもの。彼は「全 責任は自分にある」と言って周囲の反対を押し切った。現実には自分で責任を取ると言っ ても何もできない。
 他方、国は法律によって自国人を救出する義務を負っている。
 一人の冬山遭難者の救援にも天候が悪ければ捜索隊は様子を見る。その間に遭難者が死 ぬかもしれないが、数人以上の二重遭難を避けるためにはやむを得ない。これも「生命第 一」 なのだ。将来、政府が様子見することになっても責められない。

  つい先日、これだけ政府を振り回し、世間を騒がせた直後にフリーカメラマンがシリアに渡航しようとした。外務省が法律に則り、彼のパスポートを回収してトラブルを未然に防いだ。こんな悪天候の冬山に勝手に登られたのではかなわない。
  よくあるマスコミを使っての売名行為だろう。彼は憲法が保障する「渡航の自由」と「報道の自由」を守るために提訴を考えるというから、はねっかえりリベラルの弁護士が味方につくだろう。裁判になれば継続して話題になり、彼の名前が報道される。なかなか巧みな戦術だ。

  ◇ 首相の外交にブレーキを

 首相が行ったカイロでの演説が、イスラム国に日本人を処刑するきっかけを与えたという声があるが、私には分からない。ただ私が言えることは、「イスラム国と戦っている国々に人道目的で2億ドルの支援をする」という内容は刺激的で、金持ちが金をばらまくような印象を受けた。
  中国は珍しくエボラ熱ではアフリカに人道貢献したが、外交の基本は「実利外交」だ。もう一つ、国際貢献に冷淡だったロシアは、国土周辺にしか関心がない「国境外交」だろう。
  前にも首相の外交を「ええかっこし外交」と書いたが、もっと地味にやってほしい。今も日本の文化や社会の中で生きている武士の心は、「抑制」なのだから。            (完)  

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