2011年11月2日水曜日

#59 デモはなんだったのか?ーーニューヨークからの報告

先月(10月)中旬から2週間、マンハッタンとプーキプシに滞在しました。プーキプシはマンハッタンの中心部グランドセントラル駅から列車で北へ120キロ、1時間半のところにある別荘町です。私はアメリカより近隣のアジア諸国や国内の旅行をしたいのですが、娘家族の招待にあずかってニューヨークに行ってきました。
 ちょうど反格差を掲げるデモの最中(現地ではOccupy Wall Street、ウォール街を占拠せよ、と呼ばれる)でしたから、アメリカ人の意見を聞き、現地のメディアで情報を得ました。いろいろ考えさせられることがあり、報告してみたいと思います。

◇ アメリカのデモについて 
 連日続いているウォール街でのデモでは、もう一つ目標がはっきりしない。「リーマンショックで破綻した大金融会社(銀行や証券会社)が政府から公的資金の支援を受けながら、トップ経営者が数百万ドルの年収を受け取っているのはけしからん」、「金融取引一回ごとに課税せよ」という声が聞こえる程度だ。メディアの解説では、しきりと「わずか1%余りが年収100万ドル以上を稼ぐ一方、90%の年収平均は3万ドルに過ぎないという格差がある」と言っている。テレビに映るデモの顔ぶれを見ていると、彼らの年収がとても3万ドルも得ているとは思えない。一部は富裕層が住むセントラルパーク周辺まで歩いて、大会社の経営者のアパート(日本ではマンション)前で抗議の声を上げた。何を政府に対し、あるいは世間に対して訴えているのか分からない。
 アメリカ人経営者や専門職の友達によると、デモは失業者や低所得者の不満が背景にあるだけだという。彼らは組織化されていないことから、私有地の広場と公道を占拠して多数が逮捕されている。私の印象では彼らは隙だらけだ。市民運動家の支援はあるが、世間からの支持は広がっていない。
 新聞に寄せられた読者意見には、失業率は9.5%と高いが、それでも得られる職、例えば、彼らは建設労働などきつい仕事を取らないという批判があった。私が乗ったタクシーの運転手も同じ批判をしていた。因みに、ニューヨークのタクシー運転手の職はインド、パキスタン、エジプトなど外国人系の移民にとっくの昔から取られている。街頭の屋台もほとんどがヒスパニック系だ。彼らの中には現在の低収入を我慢しながら、いつか一段上がる志を持っている人もいるだろう。
 アメリカ社会には、根強くAmerican Dream志向とフェア精神があり、どちらも日常用語として使われる。そのためスーパースターを支持し、受け入れる。成功者がいくら高額の年収を得ようとも批判されることは少ない。問題は、公的資金によって再建された大会社の経営者が高額の年収を得ることがフェア精神に反することだろう。他方、経営者にも、ルールに従って株主総会の承認を得たことだという言い分がある。彼らの年収は基本給料と業績評価によるボーナスに基づいている。
 他方、ルールから外れた不正行為は、例えば、インサイダー取引に対する司法による処罰は厳しい。日本に比べれば重罪とされる上、判決即刑務所送りだ。
 
◇ 日本のデモについて
 ニューヨーク滞在中に、世界に広がるデモを伝えるテレビニュースで東京にもデモがあったことを知った。
 帰国して私が講師をした会合の中で、12人の高中年の出席者に東京のデモについて尋ねてみたところ、2人しかテレビニュースと短い新聞記事を知らなかった。そこで、インターネットで検索してみると、出ているわ出ているわ、デモ参加者をバカ呼ばわりする、敗者と決めつける投稿がいっぱいあった。なんと冷たいことよ。デモグループは経産省や東電に行き、「反格差」と「反原発」を訴えたという。これは的外れだろう。彼らは「若者に仕事を寄こせ」の一点に絞り、開会中の国会に行くべきだった。
 しかし、私がインターネットを使って緩やかな連帯の「若者政治ネット」をつくるように呼びかけたのは、本稿#8で2009年7月だったが、私が呼ぶ中国の「ネット紅衛兵」を元祖とするインターネットを使った集会を実行したことを高く評価したい。なに、最初はこんなものさ。なんでも、新製品の販売が成功するには時間がかかるものが多い。
 若者よ、なんでもいい、将来を期して職に就くことだ。きたない、きつい、危険の3Kの仕事でもナンバーワンになることだ。本稿#18を読んでほしい。諸君が仕事を取らなければ移民に取られる。いや、今そうなりつつある。
 先日野田首相が行った所信表明演説の中には、「若者」、「雇用創出」の言葉がひと言もなかった。投票に行かない諸君たち若者は関心の対象ではないのだ。

◇ 余談、アメリカのテレビ
 アメリカのテレビを観ていて驚いたことが二つある。
 一つは、チャネルが1000以上もあること。4大テレビ局が国際版からお買い物チャネルを持っているし、地方局、通販、スポーツ、天気、宗教、映画、子供番組などの専用チャネルがわんさとある。一時に一つのチャネルしか観られないのにどうやって経営が成り立っているのだろう。そう言えば、台湾にも100チャネル以上あった。
 二つ目は、タレントから専門家までごっちゃにしたバラエティ番組が一つもないこと。政治でも経済でも、真面目な専門家による対談番組が主流だ。一般の大衆はこんな番組を観ているのだろうか。
(完)


Back to TOP  

0 コメント:

編集

Back to TOP