2010年11月20日土曜日

ネット月刊誌「言論大阪」#8,12月、2010 

    
    梅田北ヤードに巨大サッカー場?
     ――次代の遺物になりかねない

                 経営評論家・岡本博志

 12月2日にサッカー・ワールドカップの2018年と2022年の開催地が決まる。
 18年には有力視されるアメリカに決まると、22年はヨーロッパになるだろう。22年に立候補している日本になる可能性は低い。
 日本の弱点は、開会式と決勝戦に使われる8万人収容の施設がないことだと指摘されている。そのために、日本サッカー協会は梅田北ヤードに目をつけ、これで計画書をFIFA(国際サッカー協会)に提出した。
 資金の一部を負担することが重荷の大阪市は、当面お付き合いしているだけに見える。平松市長も本当は乗り気でないと憶測する。何よりも梅田北ヤードに巨大なサッカー場は景観のぶち壊しになる。

大阪のサッカーはバランスが取れている
 大阪のJリーグには南部のセレッソと北部のガンバの二つがあり、立地面でうまく棲み分けされている。もうサッカー場は要らない。ただし、2002年の日韓共催ワールドカップの時にセレッソの本拠地長居サッカー場が大改造されたが、ガンバの本拠地である万博公園競技場は陸上競技と併用であるため、観客席からピッチまでが遠い問題がある。
 そのため、万博公園内に新しいサッカー専用場が提案されている。しかし、建設資金の めどが立たないのでどうなるか。私はそれよりも、最近プロ野球の球場で内外野のファウルスペースを狭めて観客席を増設した例にならって、万博競技場でも陸上トラックに近付けて観客席をせり出す改良工事をする方が現実的であると思う。8万人収容は考えない。
 梅田北ヤードに巨大サッカー場を建設しても一過性の使用にとどまり、常時使われることがない。建設費も巨額なら、維持費も大阪市の財政を圧迫することになる。次代には巨大な遺物を残すことになろう。

梅田北ヤードの全体計画を見直す機会
 梅田の新ビル建設がすさまじい。阪急百貨店の高層ビルと富国生命ビルが相次いで完工したのに続いて、大阪駅ノースゲートビルも近く完成する。どれも美しいビルで地域の景観に融けこんでいる。まだ大阪駅近くの特等地にオフィスビルが建設中だ。
 この建設ラッシュのために、梅田のオフィスビルの供給が過剰になり空き室率が高い。その中で中央郵便局の高層ビル建設が2年延期された。すでに大阪駅前ビルに一時移転して業務を行っているにもかかわらず、郵便事業会社はよくぞ英断したものだ。
 他方、梅田北ヤードの一期計画は進んでいる。研究所や大学の出先機関などを中心にするナレッジキャピタルと、ホテルやオフィスビルの建設も含まれる。二期計画はまだ定まっていない。
 私が住む茨木市には国際文化公園都市「彩都」と呼ばれるニュータウン建設が今も進行中だ。1982年に計画されてから28年、「始めに開発ありき」の典型のような計画で、結局、東部、中部、西部地区が飛島に分けられる立地であり、メインは住宅開発だった。それに国際文化施設、研究所、ホテル、デパートなどで色付けし、大阪府が主体、財界、茨木市、箕面市を巻き込んだ。学者も「人類史的な貢献を目指す知的生産と文化の拠点づくりを」と謳った。
 結局、今日では、阪急グループが最大の東部地区開発から撤退、文化・研究施設の建設が計画された中部地区は土地造成もされず、西部地区だけが住宅と、中部地区に建設されるべき研究施設が建てられている。5万人の予定人口は5千人にとどまった。
 私は95年に帰国間もなく、この需要も見込めない開発計画は経営が成り立つはずがないと思い、小著『大阪がかわる 地方がかわる』(三一書房刊、1997、年)の中で書き、市民の会のホームページで論陣を張り、さらに冊子までつくって配布した。市民の関心が広まらないので、さらに2000年の市長選に出馬した。行政が経済振興と都市計画を国文都市に依存することなく、独自の地域経済の振興と投票率60%を訴えたが、知名度も組織もない悲しさ、メッセージが届かないまま投票率は前回の29%から5%押し上げただけだった。共産党候補と互角に善戦したと言われたことには大した意味がなく、実践する評論家として自己満足に終わった。国文都市について詳しくは改めて書くつもりだ。
 さて、余談に流れたが、梅田北ヤード計画は、国文都市と共通する点もあるが、違う点は梅田北ヤード計画を成功させなければならないことだ。
 現行のナレッジキャピタル計画を支持するが、全体計画は見直さなければならない。オフィスビルは過剰供給だから、全体を梅田公園として再計画し、ナレッジキャピタルのビル群はヤードの両側に配置し、真ん中を大公園にしてほしい。池もほしい。芦屋や箕面に住んでいる財界人が引っ越しに魅力を感じるような高級マンションも片側に建設する。
 かつて大阪の市民が寄付して大阪城を再建したように、梅田公園も市民の浄財によって資金を集められると信じる。私も大した足しにならないが、次代に感謝されるために寄付したい。大阪には有力な建築家や都市計画専門家の人材が得られる。彼らの構想をもう一度聴いてほしい。
 市民が昼さがり、あるいは夕方に散策し、屋台のハンバーグやアイスクリームを食べながら談笑する、ビルの一階にあるオープンレストランでは食事を楽しむ光景が浮かぶ。ジョギングの名所にもなるだろう。実現可能な夢だ。

大阪は発展を遂げた
 先日、生駒山上から大阪平野を一望した。遠くに梅田の高層ビル群が見える。そう遠くない昔、飲食や衣料小売りの店が掘立小屋のように軒を並べた梅田からよくここまで発展したものだ。先人の努力に敬意を払いたい。
 今度は今の世代が大阪の次代をつくる時ではないか。 

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2010年11月14日日曜日

#41 日本への移民受け入れをどうするか? ーー政府のビザ規制が弱い

 先日、日本人の血縁があるという中国人約50人が関西国際空港入国管理局事務所の審査で簡単に入国を許されました。彼らは入国するやいなや全員が大阪市に生活保護を申請して一旦認められたが、新聞報道などにより大阪市は驚き、入国審査のやり直しを求めたが、その後どうなったか?
 大阪市は脇の甘さを突かれて、生活保護者の申請増加に悩まされています。市民20人に一人の生活保護者を抱え、それでなくとも財政危機にあることから、国の支援を増やすことを要請しています。実際、周辺市の行政から大阪市は生活保護を受けやすいと言って、大阪市に引っ越しすることを勧めています。それどころか、四国のある市は生活困窮者に対して大阪までの高速バスの片道料金を支給して大阪市に追い払っているというのだから、ひどい話です。
 さて、今回は大阪の問題ではなく、日本政府の移民管理政策について書いてみます。また面白くない文ですが、若者諸君の時代に大きく関わることです。

◇ 情を捨てて原則につかなければならない
 前述した中国人はみんなお年寄りであり、おそらく中国にはまだまともな福祉政策がないので、生活に困窮していたことは想像がつく。日本に来ることは最後の望みであったかもしれない。中国側にも日本側にもこういう困窮者に限らず、日本に不法移民を送る組織があると言われている。利用される困窮者は本当に気の毒な人たちと思う。
 しかし、国家の統治を担う政府は、法律に従って厳しく原則を貫かなければならない。原則とは、内戦などによって国外に逃げなければならない内戦難民と、政治活動によって命を脅かされる亡命者を除いて、経済的な理由による経済難民を受け入れないことだ。これは国際標準である。
 一つ厳しい例を挙げよう。
 私がアメリカ生活中、1990年代の始めであったと思うが、アドリア海先端の海峡と100キロしか離れていない(韓国と九州の間は150キロ)アルバニアからイタリアに4万人もの経済難民が、何隻もの船で押し寄せたことがある。当時、アルバニアは共産主義の時代が終わり経済が混乱状態にあった。  
 ところが、イタリア政府は彼らをサッカー競技場に収容した後、全員をアルバニアに追い返した。メキシコからの難民に悩まされるアメリカでは注目されて新聞やテレビがこのように報道した。
 そのアメリカでは政府は移民原則を適用し、厳しく取り締まっているが、何しろ陸続きの国境は2千キロを超えるので限界がある。メキシコからの不法移民は1千万人を超えると言われる。

◇  日本への留学生増加の功罪
 今、日本に大学と日本語学校を含めて中国からの留学生が13万人に達し、このうち1万人が日本で就職すると言われる。
 なぜこんなに多くの中国人が留学ビザから就労ビザに変えて日本で働けるのだろうか?日本の大学を卒業すれば、同じ教育を受けた日本人卒業者と変わらない。母国語を話せるという違いはあるかもしれないが、それなら中国語に堪能な日本人学生と変わらない。
 アメリカの大学を卒業した日本人の中で、アメリカで就職したい留学生に対してはアメリカ政府は就労ビザへの切り替えを厳しく規制している。そのまま働けるのはインターンシップ制度で1~2年の限定期間だけだ。どの国の留学生に対しても同じ。
 日本企業は日本で経験を積ませた後、中国事業のために中国子会社で幹部として勤務してもらうことを意図していることがあるのかもしれない。インターンなら良しとしても、それでも1万人は多すぎる。就職難に苦労している日本人学生の就職機会を奪っているのではないか。不況期にはアメリカでは外国人雇用に対して強い反対運動が起きた。このような反対は日本ではまだ聞いたことがない。
 日本政府の規制、つまり原則適用が甘いのではないか?
 もう一つの問題は、多数の中国人留学生をすべて幸福にはできないことだ。むしろ多くは苦労が報われないまま、中国に帰ることを余議なくされる。彼らは帰国後反日派になるかもしれない。私が知ることで、アメリカで満足した処遇を受けた日本人は帰国後に親米派となり、そうでない場合には反米の感情を持ちやすい。
 日本への留学生、そして移住者も他国を知らず、他国ならもっと苦労したかもしれないという発想を持たない。だから日本批判に傾きやすい。
 日本政府の安易な留学生増加の旗振りは危ない。このことを認識してもらいたい。

◇  日本も移住天国になりかねない
 どの国でも国が必要とする専門職の人材を受け入れているが、一般職の人材は移住を制限している。例外はある。
 例えば、1989年に日本政府は人手不足を解消するために、法律を改正して日系ブラジル人労働者の受け入れを認めた。言葉と低賃金の問題を抱えて、その後本国への帰国者が出た。地域住民が彼らに支援の手を尽くしても、今は就職機会がない日本人が多いのだから仕方がない。政府の施策には限界がある。
 それでも外国からの移住者はこれからも増えるだろう。
 特に中国からの大量移民の恐れがいつか現実化するだろう。国内統治に難事をかかえる中国政府の努力にも限界がある。
 ひとたび混乱が起きれば、移住先として狙われるのは、台湾、ベトナム、韓国、日本の近隣諸国になるだろう。台湾の友達によれば、言葉の問題がない台湾には、すでに10万人の不法移民がいる。日本が移民天国のように憧れの国である話がこれからも流布すればどっと日本に押し寄せるかもしれない。
 日本政府は当然考えているだろうが、イタリア政府のように決断できるかどうか。
 若者諸君、これはキミらの時代の問題なのだ。

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