2016年7月25日月曜日

#164 都知事選挙と首都移転――諸君の時代をどうするのか?

 都知事選挙の投票日まで一週間になりました。 民進党の候補選びに腹を立てていましたが、もっとも門外漢の私の影響力など無きにひとしい。それでも若者諸君には持論を届けたいと思います。
 東京の若者諸君、キミたちは衆愚の一人にならなかったか?

◇ 民進党は鳥越候補を取った

  今回の選挙で民進党が支援すべきは宇都宮健児(元日本弁護士会会長)候補だった。彼 は穏健リベラルと目され、掲げた政策もキャリアも民進党推薦にふさわしい候補だった。
  しかし、自薦で寄り添ってきた鳥越俊太郎候補に乗り換えて、都知事選に3度目の挑戦をしようとした宇都宮候補を撤退に追い込んだ。鳥越候補の知名度に惑わされたのだ。
  さて、一体、鳥越候補(76歳)は知事の資質があるのか? スクープで名を挙げたジャーナリストだと聞くが、76歳にしてリーダーの経験もない、行政にもまったくの素人だ。何を期待できるのか?4回の胃癌手術の闘病生活を本に著し、これはテレビ番組になって話題になったそうだ。最近ではベッドメーカーの全国紙の広告に出ている。世渡りはうまい。  しかし、テレビの対談番組に彼が出演した発言から彼の論理的思考力に疑いを持っている。彼は論理ではなく、感性にしか頼れない人物だ。

 (その一)90年代のことで、英語教育を小学校から導入することについて、賛否両論の識者二人ずつが議論する番組で彼は賛成の理由を訊かれた。彼は「自分が新聞記者として一年間ワシントンに駐在した時、パーティでは話相手もなく惨めな思いをしたから、今の小学生に同じ思いをさせたくないからだ」と答えた。要するに、彼が英会話を本気で勉強する気がなかっただけだ。まったく論理がない。  こんなことで英語に関心がなく、使う必要がないかもしれない多数の小学生には迷惑な話だ。
 (その二)安保法制について議論が盛んだった頃、反対派の彼は尖閣諸島を領有化するかもしれないことについて訊かれると、「そういうことはない」と答えた。さらに理由を訊かれると、答えは「もう戦争はないから」だった。論理的に説明できなかった。知名度によって番組出演に選ばれたのはテレビ局の人選ミス。
 (その三)出馬の記者会見において政策の第一に「都民全員に無料の癌検診」を挙げた。 各区は無料の健康診断を実施しているし、癌検査も安く受けられる。将来の課題として無料が実施されるかもしれないが、論理で整理すれば、さしあたり都政が直面する重要課題ではない。改憲阻止と原発反対も挙げていた。「男なら出なくてはならない」とも言っていた。要するに、思いつきの感性人間なのだ。

◇ 選挙はどうなったか?

 先週の新聞報道では、「小池、鳥越を増田が追う」と書かれている。鳥越候補には高齢と病気歴があるのに触れない。どうもジャーナリストの鳥越にひいきしているように感じる。 支持者の野党、同業のジャーナリスト、芸能人もすべてが鳥越候補に投票することはないだろう。
 人気より岩手県知事と総務大臣のキャリアが重要であり、まだ若い64歳の増田寛也候補が本命と思うが、地味な印象で損をしているようだ。
 小池百合子候補も64歳、カイロ大学卒でアラブ語に堪能だから外交など国政に貴重な存在。今回の知事選には国会議員を辞めてまで出馬してほしくなかった。
 さて、選挙の結果はどうなるか?私は鳥越候補は他の二人に差をつけられて3位に なると思う。  都民の見識を信じている。

◇ 都知事選挙と首都機能移転

 テレビや新聞の報道で各候補者の政策を知るが、地震については防災政策ばかりだ。首都機能移転と東京一極集中の是正は国政の問題であり、東京都の課題ではないからだろう。結局、大きくは変わらないということになる。 しかし、首都移転は忘れられている。進められている文化庁を京都に、消費者庁の一部を高松に移転する話は地方創生の政策によるものだ。
  今の若者は知らないかもしれないが、振り返ると、首都移転の問題は2000年始め頃議論が高まったことがあった。当時も大地震が予測されていた。2003年に衆参両院の特別委員会で栃木・福島地域、岐阜・愛知地域、三重・畿央地域の3候補地が採択された。その後国政の場では議論されなくなり、2011年にはこの問題を担当する国交省の部署が廃止された。これまで一歩も進んでいないまま今日に至っている。地震の脅威が変わっていないのに、これでよいのか?

  参考までに、韓国では、私が日本企業からよく出張した70年代、韓国全人口の2割,富の5割が集中すると言われていたソウルから、行政機能、国会を中部に移転するという議論が盛んだった。 ソウルは38度線からわずか40キロの距離にあり、いくらミサイル迎撃設備を配置しても、北朝鮮からの長距離砲の射程40~60キロの砲撃を防げないことは泣き所だ。北朝鮮が言う「ソウルを火の海にする」というのは現実の脅威になっている。
 韓国政府は一部の官庁を中部都市への移転を進めているのは東京よりはましだ。 日本政府が動かないのであれば、東京都が立ち上がるべきだろう。

◇ 選挙の行方  

 24日の読売新聞が選挙について世論調査に基づいて、「小池・増田を鳥越が追う」と他紙と反対の分析をしている。読売の保守系紙的見方なのか、都民が冷静になってきたのか。
 私は門外漢ながら、今回の都知事選挙に格別の関心を持っている。なぜなら、直接選挙の危うさを感じているからだ。首相を直接選挙で選ぶ声があるが、私は第一党から首相を国会で選ぶ現行の制度が良いと思っている。
 さて、選挙の結果はどう出るか?             (完)  

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2016年7月19日火曜日

#163 最後の「中国たより」‐‐「朱子学」

 長い間「中国たより」を寄稿していただきましたI氏が役員定年で退職し帰国されました。今後は非常勤顧問として中国に出張があるとのことです。  私が知る限り、彼ほど深く継続的に中国と関わってきた人は稀でしょう。私は、例えば、 『Iの日中交流40年』のタイトルで本にまとめるか、大学教授になってほしいと思っています。これまで40年の体験と知識を踏まえて将来の中国がどうなるのか?
 彼はまだ65歳で若いですから、これから第二の人生でひと働きしてほしいものです。  

 ところで、私も「若者塾」の連載をあと2,3回で休止したいと思います。集中力が減退してしんどくなってきたからです。    

     ―――――――――――――――――――――――――   

          「中国たより」――「朱子学」

 1978年から1979年にかけて、鄧小平が掲げた「経済改革、対外開放」政策がさかんに 謳われるにつれて、「改革開放」と略することが多くなりました。更には「Open Policy」 と喧伝されることで、一種の錯覚が生まれて行った気がします。確かに深圳や厦門などの経済特区の開設や「利用外資」のスローガンの下で「対外開放」が進行しました。しかし、それはあくまでも「対外開放」であったことを忘れてはいけません。「対外開放」を「対内開放」さらには「対内解放」にまで過剰に期待したことが、1989年6月の北京での悲劇に繋がる一因になったと思います。
 1980年代の中国社会には政府に対する淡い期待、厳しく言えば「甘え」があり、それが民衆運動の過程で加速することによって、政府が許容する臨界点を超えた時、権力のグリップが握り返されたと考えます。
 漢字を共有する日本と中国。同文同種の甘えは危険だと諸書に記され、戒められてきました。しかし、ついつい日本的な翻訳、日本人好みの解釈が定着して、錯覚や誤解のもとになってきたことも否めません。 その一例が上記の「対外開放」を厳密に峻別していないことです。「対外」という限定的な言葉が付いている以上は、「対内」の開放はないのだという当たり前と言えば、当たり前の警鐘を鳴らすべきであったと思います。 ついでに言えば、中国語の原文には堂々と「利用外資」と書いているのに、その訳文をわざわざ「外資を活用して」とする翻訳文が多くあります。悪い冗句ですが、「中国に投資して、相手側に利用されて損をした」とボヤク人が出てこないように「外資を利用して」と正確を期すべきだと考えます。たしかに中国語の「利用 li yong」には、日本語の利用・使用・活用の語意もあります。そして一方では「うまく使う」「利する」とともに「甘える」「依存する」という使い方もあるようですから。  

        (中略)

 
 最近、上海である会合に出席しました。
 弁護士やコンサルタントの皆さんの発言に続いて、コーチング会社のKさんから「この一年、コーチングの対象が駐在員から中国のナショナルスタッフ(NS)中心に変わってきた。また、従来の上海中心から武漢・重慶という西方の都市部にもコーチング業務が広がりつつある」という新鮮な話題が出されました。

  国内の市場開拓が本格化  → 駐在員の力量では不足 →NSリーダーの需要増
 住宅・教育等の価格費用増 → 駐在員の経費が増加  →NSリーダーの需要増 市場が西方  
 都市部へ展開  → 現地に根差した要員育成→NSリーダーの需要増
 

 ・・・ という構造変化についての分析が集約されていきました。
 続いて、そもそも「コーチング」とは何ぞや?という根本の議論になり、Kさんの丁寧な解説でも理解が難しく、「喩えて言えば、机を挟んで相対して指導を受けるTEACHではなく、机を前に二人が並び、良い方向を目指して話しながら気付いていくのがCOACH?」という年輩者のたとえ話で何となく分かったような、分からないような状態になりました。
 そこへNさんから朱子の言葉の紹介があり、その内容が「コーチング」理解に重なるのではないか、という発言で一同が得心しました。やはり、年輩者の物知り風のたとえ話より新鋭の研究職の説得力には切れ味がありました。 後日、Nさんから送ってもらった出典を以下に記します。

 『朱子語類』巻十三・九 原文「某此間講説時少。践履時多。事事都用你自去理会。自去体察。自去涵養。書用你自去読。道理用你自去究索。某只是做得箇引路底人。做得証明底人。有疑難処。同商量而已」
  日本語訳「私のところでは、講義の時間は少なく、実践の時間が多い。何事もすべて君自身が取り組み、君自身が身をもって考え、君自身が修養せねばならん。本も君自身が読み、道理も君自身が研究せんといかん。私はただ道案内人であり、立会人であるにすぎん。疑問点があれば一緒に考えるだけだ。」 出典 三浦國雄『「朱子語類」抄』講談社学術文庫 33頁
  最後に、実践的なコーチと言えば、やはり野球。以前にも触れたことのある佐藤義則投手コーチに行き着きます。ダルビッシュ有、田中將大を育て、現在はソフトバンク・ホークスを支えています。 「教え子に理論をおしつけることはせず、納得するまでとことん付き合う。それが佐藤の流儀だ。松坂大輔らの大きな戦力が加わった今年のソフトバンクだが、一番の「補強」はこの男かも知れない」(二宮清純)                (了)

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