2016年1月20日水曜日

#152 日本とアメリカの健康保険――自分で守れの違い

 新年おめでとうございます。  諸君の中にはおめでとうどころではない正月を迎えた人たちもおられるでしょう。  私にも何ひとつ良いことはありませんでした。というのは、12月から病気と治療通院で悩まされたからです。昨年には脊柱管狭窄症、緑内障・白内障、心筋梗塞の3種目の手術で入院し、リハビリを続けていました。好きな水泳も止められています。
 頑健と思っていた私も集中砲火を浴びたのです。高校の一級上で頑健だったH氏も胃癌から始まっていくつもの病気にかかりました。彼は小児科と産婦人科以外は診察券を全部持っていると言っています。私も診察券があっという間に増えました。
 そう、頑健であっても歳を取るうちに病気から逃げられないようです。
 今回は日本とアメリカの医療制度について書いてみます。

◇ 健康保険と高齢者医療制度  

 日本の制度は国民皆保険と言われ、個人が保険料を一部負担して誰もが保険治療を受けられる。会社員なら会社が半額負担してくれる。若い世代で自営業や非正規雇用の場合は、国民保険料が重荷かもしれないが、いつかの時に助けてもらえるから、生活保障経費と考えてほしい。
 さて、私の3種目手術には医療費が400万円以上もかかったが、聞けば1千万円以上もざらだという。私の個人負担は高齢者のため1割負担、さらに市の高額助成制度があり、わずかな治療費のほか入院の部屋代と食事代を払うだけ。
 日本の年間医療費の総額は40兆円にもなり、なんと国家予算の40%に匹敵する。国庫負担の1兆円余は毎年増え続けている。このうち国の高齢者医療費の重荷になっていて。高齢者が増え続けるこれから20年は大変。それまでは諸君たちに助けられなければならない。

  ◇ アメリカの健康保険制度

 アメリカには国民皆保険制度がない。国の健康保険制度であるのは低所得者のMEDICARDと高齢者のMEDICAREだけで、それも日本のように最新の医療を受けるには制限がある。残る多数の市民は民間の保険会社から保険を買わなければならない。一切の健康保険を持たない無防備の市民は約3000万人になるという。
 私は高い民間保険を買っていた。それでも毎年200ドルの免責があるから、子供が怪我をすると、200ドルまでは健康保険が利かないので自費で払った。その上歯科は保険の対象にならない。
 結局、17年以上の滞米中、保険を使ったことがない。いくら保険は相互扶助とは言え、保険会社を儲けさせたのだと思っている。

◇ オバマ大統領の苦闘  

 残る1年の任期になったオバマ大統領は二つの宿願実現に苦闘している。  一つは国民皆保険制度であり、他は銃規制だ。どちらも無いのは先進国としては極めて珍しい。
 これには「自分の身は自分の責任で守る」という建国以来のアメリカ流の論理が背景にある。健康保険では自分の健康保険は国の保護に頼らず、自分の責任で入れというわけだ。
 今、オバマケアと呼ばれる国の健康保険を立ち上げ、任意で加入する制度が始まり、少しずつ加入者が増えている。クリントン大統領候補がファーストレディの時に取り組んだが、共和党に反対されて挫折した。彼女が大統領になればこの難題をどうやって進めるか。
 何しろ皆保険が実現すれば保険会社はビジネス機会を失うことになるから、業界こぞって共和党に圧力をかけてつぶそうとするだろう。
 アメリカの論理が国内にとどまるならまだしも、TPP交渉の過程で、アメリカは共和党の圧力に押されて日本の皆保険制度を槍玉に挙げていた。アメリカ流の論理を日本に持ち込もうとした。ええ加減にせい、と私は思った。
 私が帰国する前、万年赤字に悩む町の公立病院が保険会社に買収されて経営支配するようになった。全国でも保険会社による病院の買収が起きていた。何しろアメリカの保険会社は寡占状態にあり強大だから、こと健康保険に関しては警戒が必要だ。

  ◇ 健康診断の勧め  

 諸君たちは行政(市役所)が年に一度無料の総合健康診断をしていることを知っているか?
 会社の健康診断を受けられない諸君には行政の制度を是非受けてほしい。「健康診断を受けて自分の身は自分で守れ」が日本流だ。
 これは国や自治体が進める病気予防政策の一つだ。国の医療費負担を減らすには、病気になる前に予防に力を入れる方が有効であるという考え方があるからだ。
 私もこの制度に救われた。手術を受けることになったのも、健康診断で病気が見つかり、精密検査から早期発見で手術の必要がなかった病種があった。頑健で病気とは縁なしと信じていた私は、昨年に3種目の手術と、疑いがあるため検査、検査の集中砲火を浴びた。生涯で最悪の年だった。
 今年、健康診断の一つ、検便で血が出た。すわっ、大腸ポリープかと内視鏡検査を受けたところ、ポリープは小さく、切れ痔と分かった。 笑えないオチで本稿の終わり。               (完)

Read more...

Back to TOP  

2016年1月19日火曜日

#145 中国たより――済州島4・3事件とは?


   北京在住のI氏が北朝鮮国境地域のほかに韓国の済州島事件について書いています。  少し前置きが長くなりますが、私も済州島について書くことにしましょう。
 4・3事件というのは、朝鮮半島が南北に分かれた1948年、済州島民が独立を求めて蜂起した時、韓国の軍隊と警察が島民の5人に1人、6万人を虐殺した事件です。
 私が韓国に出張中、親しくなった技術者から、今も本土人の間には済州島民を蔑視していると聞いたことがあります。なぜか、また事実なのかどうか分かりません。 朝鮮戦争が起きたのは2年後のことです。
 大阪に住んでいた時、済州島を舞台に老夫婦の農民と牛の生活を淡々と描く映画をミニシアターで観たことがあります。ひと昔前のフランス映画のようでした。済州島にはいつか行ってみたいと思っていました。   
   
  ------------------------------

     「中国たより」

 この春、平凡社ライブラリーの一冊として増補出版された『なぜ書き続けてきたか なぜ沈黙してきたか 済州島4・3事件の記憶と文学』(金石範・金時鐘著 文京洙編)を読んで、改めて1948年4月3日の済州島での武装蜂起、それに対する徹底した弾圧粛清や予備検束について系統だって知ることができました。とりわけ、済州島脱出と日本への密入国を経て、きわどく生き延びた金時鐘氏の長い沈黙の重さが印象的でした。 済州島での事件についての詳細は省きますが、巻末資料に掲載されている盧武鉉大統領の済州4・3事件58周年記念慰霊祭でのスピーチ(2006年4月3日 済州4・3平和公園)を一部引用して、当時の韓国政府の姿勢をお伝えします。
  「国民の皆様。誇らしい歴史であれ、恥ずかしい歴史であれ、歴史はあるがままに残し、整理しなければなりません。とりわけ、国家権力によって恣に行われた過ちは必ず整理して、乗り越えていかなければなりません。国家権力はいかなる場合においても、合法的に行使されなければならず、法から逸脱した責任は特別に重く問われなければなりません。同時に、赦しと和解を口にする前に、やりきれない苦痛を被った方々の傷を治癒し、名誉回復をなさねばなりません。これは国家がしなければならない最小限の道理です。そうしてからこそ、国家権力に対する国民の信頼も確保でき、相生と統合を言うことができると思います。」(同上書307頁)自らの言葉で、自らも内容を信じて、簡潔に述べられた談話だと思います。
 対北朝鮮国境に貿易地区=大橋開通目指す?
 【北京時事】新華社電によると、中国遼寧省政府は7月13日、対北朝鮮国境都市の丹東市に両国の国境地域住民が商品を取引できる貿易地区を設置する方針を明らかにした。既に承認されており、10月から運営するという。
 鴨緑江を臨む丹東市の国門湾に設置され、約4万平方キロの土地に交易や物流、検査などのための施設を建設する。丹東は中朝貿易の最大の経由地。国境から20キロ以内に居住する住民だけに貿易地区での交易が許され、北朝鮮の国境住民と商品の取引が可能となる。1日8000元(約16万円)以内なら関税などが免除される。
 貿易地区が設置されるのは中国が新たに鴨緑江に建設した「新鴨緑江大橋」の中国側起点。大橋はほぼ完成しており、昨年に開通する予定だったが、北朝鮮側の事情で開通していない。中国側には貿易地区の運営開始とともに、大橋の開通を目指し、中朝の国境貿易を活発化させる狙いがあるとみられる。
 数年前から定期的に遼寧省丹東市を訪問して、丹東の提携工場との打ち合わせとともに、北朝鮮の動きを色々と教わってきました。特別区の設置や労働者派遣の話が観測気球のように上げられては、その都度「北朝鮮側の事情で」頓挫してきました。その間に丹東の工場の競争力が下がり、一部をカンボジアの工場へ移管することにもなりました。上記記事の動きが具体化するかどうか、中国から30年遅れた対外経済開放政策に北朝鮮がハンドルを切るか?そして丹東が「東北部の深圳」として変貌できるか? 過去の経緯からみると、楽観的にはなれません。しかし、板門店で神経戦をするよりは、丹東と新義州の間を流れる鴨緑江を脱北ルートの川ではなく、溝通(コミュニケーション)のカテーテル(パイプというには、8000元/日という免税対象の規模からして憚られます)にしてもらいたいと考えています。             (了)

Read more...

Back to TOP  

編集

Back to TOP