2011年5月14日土曜日

#48 中国鉄道事情の今ーー外資・民営企業と国営国有企業

 震災の報道はテレビのガチャガチャ番組や週刊誌に任せて、今回はがらっと内容を変えます。久しぶりに中国事情を取り上げます。
 私の友達で定期的に交信しているI氏からの便りを寄稿の形で書いてもらいました。彼は上海駐在で中国子会社グループを統括する商社のトップであり、若い頃から中国に関わってきました。彼は中国語の読み、書き、話しに堪能だから自由に情報を取れます。
 中国の鉄道について、メディアがここまで詳しく伝えたことはないので、若者諸君の参考に供します。さて、皆さんは何を発想しますか?
 
◇ 寄稿「中国鉄道事情」
 「我国高速鉄路快速発展的主要原因」という雑誌記事を読みました。高速鉄道発展の要因は①党中央、国務院の正確な政策決定、②国家関係部門と地方政府の大きな支持、③鉄道体制の優秀さ、④自主創造による高い目標追求、⑤戦闘的な幹部と職工の隊伍、と書いてありました。
 重点対象として「四縦四横」が上げられていました。
 四縦;①北京⇔上海           1318km
    ②北京⇔武漢⇔広州⇔深圳(香港) 2350km
    ③北京⇔瀋陽⇔ハルピン(大連)  1612km
    ④上海⇔杭州⇔寧波⇔福州⇔深圳  1650km
 四横;①青島⇔石家庄⇔太原        906km
   ②徐州⇔鄭州⇔蘭州        1346km
   ③上海⇔南京⇔武漢⇔重慶⇔成都  1922km
   ④上海⇔杭州⇔南昌⇔長沙⇔昆明  2264km
 これら8路線を核に2020年までに客運専用線を1.6万kmに、営業総距離を12万km以上にする計画です。まさに縦横無尽に世界一の鉄道事業規模を目標とする計画です。いや、計画でした。

 鉄道・交通事業を高度成長のバロメーターの一つとするのは、1964年に東京オリンピックと東海道新幹線と名神高速道路の開通が同時に為された例を見るまでもなく、一般的な分かりやすい見方だと思います。
それで、この一年は、中国の交通関係の動きを追いかけてきました。
 今年の1月7日付け北京時事の佐藤雄希記者による「中国、世界一の交通大国に。鉄道・道路を急ピッチで整備」というレポート。
 4兆元景気対策の後押しを受けて、建設が計画を上回るペースで進展。例えば、北京と上海を結ぶ京滬線は、2012年完成の計画を1年前倒しして開通の見通し。所要時間は現在の10時間が半分以下に短縮、とあります。劉志軍鉄道相は「高速鉄道の総延長距離は10年末時点で、8358kmとなり、今年一年だけで、更に5000km延伸される見通し」との談。
 ところが、2月25日、全人代常務委員会はその劉志軍氏の鉄道省書記の党籍を剥奪、続いて鉄道相の職からも解任しました。理由は「重大な規律違反」。3月2日付けの京華時報を転載した北京時事によると、劉氏の側近で高速鉄道プロジェクト責任者の張曙光運輸局長も停職処分となり、妻子が長期間米国に住み、単身で北京に暮らす「裸体官僚」だと報じています。
 家族を海外に居住させ、資産隠しや逃亡先の手段を確保している汚職官僚のことを「裸体官僚」と呼び、中国政府も近年こうした動きを厳しく監督している、と補足しています。
 4月14日の「新京報」には、「最高時速、300kmに引下げ」というタイトルのもと、鉄道省は安全面の考慮から、新幹線速度を従来の350kmから300kmに引下げると発表した、これまでの高速化、整備推進を見直し、消費者のニーズに併せた安全化、細分化へ方向転換をしている、との報道です。
 更に、4月29日の北京ロイターが伝える「経済観察報」によれば、鉄道インフラ投資を7,000億元から4,000億元にカットする方針が出されたとのこと。当該投資は政府歳出の3%を占め、川下分野への間接的波及を含めると大きな影響が懸念されます。後任鉄道相の盛光祖氏(元鉄道部次官)は、劉氏策定の投資計画について、あまりに野心的でリスクが高いと判断したため、投資額は削減されたと語っています。
 以上、春節以降に気付いた報道を整理してみると、そこから幾つかの問題点が読み取れます。
4兆元景気対策の功罪については、各種各論があり、中には日本留学経験も豊かな知識人から穏やかな口調とは言え、「この政策は1960年代初めの大躍進政策の現代版ではないだろうか?」といった疑義を呈されたことも想起しました。
 オリンピックの運動競技ではないのだから、より早く・より高くばかりを目指すことはないのに、武漢→広州の新幹線開通直後の運転手は、定刻より15分(?)早く到着したことを自慢して、顰蹙を買っていたことなどにも、鉄道事業全体の安全意識の低さを感じていました。
 また建設工事の負荷が上がることによって、多発している事故の犠牲者は浮かばれないという思いが強くあります。
 その対極で、国家の将来を左右する高級官僚の私生活の実態が垣間見えることも、1919年の5月4日運動や1989年の教訓に基づく改革が進んでいないことを示唆しており、庶民の不公平感の増幅に繋がることでしょう。
 しかし、何よりも交通行政は安全第一が使命であるべきでして、安全化は消費者のニーズではなく、最低限の権利であると思います。
 一握りの幹部による「野心的計画」によって建設段階に不安が残り、開業後も安全軽視が危惧され、更には一部で声が上がり始めた投資回収不能説(例えば、京滬線の総投資額2,209億元の内、銀行借入と起債が、1、100億元。年利6%で66億円の利息と運行経費のみは、まだ運賃収入でまかなえるとしても、元金返済や減価償却費用までは困難という指摘)という課題もあります。
 新任の鉄道相による計画見直しは、GDPにも影響する側面は誰もが注目すると予想されますが、それよりも、あらゆる意味で健康的な事業化の再出発の面を今後とも注視したいと思います。
 現下の中国では禁忌に近かった「スピードダウン」ということを公にした当たり前の勇気の持続を期待します。
 
 同じく昨年来のテーマとして、並行して注目している中国の電力・エネルギー問題については、別途纏めるつもりです。
 外資・民営企業の牽引力への期待値が低下している中国経済の中で、鉄道・交通にせよ、電力・エネルギーにせよ、大きな流れとして国家直営事業の比重が上がり、官民格差(例えば、3日発表の10年度平均賃金は官が民の1、8倍と変わらず)が今後さらに大きくなるのではないか?
 まさに「国進民退」の傾向が増長する気配を感じます。その行き着く先には、中央集権を背景にした、特定利益共有集団による属人的・恣意的な施策が多くなるのではないか?という懸念も大きくなります。社会主義計画経済への回帰、と言ってしまえばそれまでのことですが。
 外資・民営企業がお役目ご苦労ということで、「元の木阿弥」のような存在になるのは、面白いことではありません。
 木阿弥とは戦国武将の影武者で、武将の死を隠す期間、地位と禄を上げてもらって代役を果たすが、武将の死が公表され、新たな後継者が決まると、地位も禄も下がって「元の木阿弥」となる、ということですが、念のために語源大辞典(東京堂出版 堀井令以知 編)で調べたら、筒井順慶の父親が死んだ際、声の似ていた木阿弥が代わりに病床に臥して影武者を務め、順慶の成人後に木阿弥は元の僧に戻ったと書いてありました。
 外資の人間としては、国営国有企業が強くなるか、民間企業が粘り腰を見せるか、「洞ヶ峠」で眺めて待つことなく、それぞれの強み弱みを見極めながら健康的な機能を磨いていきたいと思っています。

私の感想と発想 
 中国政府にすれば、新幹線建設が国民に対して国威発揚をアピールできる手っ取り早い手段であるにしても、計画の大きさがすごいな。投資額は銭食い虫と言われる空母の建設費が霞むほどの大きさだ。
 鉄道建設は、短期的には建設労働者の雇用を生み、長期的には運行や保守に必要な雇用を増やすことになる。さて、国家の財政が持ちこたえるだろうか?
 私にはかつての日本の国鉄を想い出させた。
因みに、現在中国の鉄道総延長は91,000キロ、日本のそれはJRと私鉄合わせて27,000キロ。
 
                      


 


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