2012年9月28日金曜日

#74 世界の離島戦争と国家の責任ーーなぜ「国有化」?

 韓国、中国両国との紛争が時を同じくして起きたので、日本の外交が頼りないからだ、と政府が批判されていますが、日本は武力を行使しないことが国策であるために外交戦にはハンディがあるのです。 自民党の安倍新総裁は、中国に対し「しっかりと領土を守る」と言っていますが、本当に貫徹できるかどうか。もともとは長年の自民党外交が中国の言いなりになってきたのですから。
  諸君の参考に供するために、「国有化」の言葉と世界で起きた離島紛争の実例を挙げて、武力を楯にしない外交のあり方を考えてもらいましょう。

なぜ尖閣島は沖縄「県有化」にしなかったのか  
 今回の尖閣島問題は石原東京都知事が島を都が買収することから始まった。もともと尖閣島をめぐる日中対立は今に始まったことではない。本稿#39(2010年10月)でも関係悪化について書いた。それ以前にも、当時の小泉首相が靖国神社参拝をした時にも日中関係が悪化したことがある。  
 尖閣とは何の縁もない東京都が買収する目的で12億円以上の寄付が集まったことは民意の表れだった。知事が言ったように、都が買い取った後で国に譲渡することは、一つのクッションの役割をしたはずだ。知事が例の如く中国を刺激したところで、国は預かり知らぬことだ。国が賃借していて買い上げに変えるだけなのに、賃借の事実は中国政府が報道しないので、「国有化」の言葉が刺激的に使われた。ニューヨークの中国人デモにおいて、「日本政府が尖閣を国有化したことは、マンハッタンを日本国有化したことと同じ」などと叫んでいたが、なんというバカな論理なのか? 
これをそのまま信じるアメリカ人もいるから始末が悪い。
 もう一つの選択があった。それは都が集めた寄付金を沖縄県に与え、尖閣を沖縄県が買収して県有地にすることだった。なぜこの選択が話題にもされなかったのか?沖縄県から提案されなかったのか?  
 他愛ない素人談であるが、「県外の市民大衆は沖縄の県政、つまり統治力を信用していないからさ」ということだ。  私も批判覚悟で言うと、知事と沖縄県人は「アメリカのために基地を提供している」、「日本本土のために基地を提供している」として沖縄の犠牲を言うが、「基地は沖縄防衛のためにもある」と。中国が沖縄の領有権さえ主張している今の東アジア情勢を見れば、沖縄に自衛隊が駐留するだけでは中国に対する抑止力にならない。(これを妄想という意見もある)

国際用語としての「国有化」  
 「国有化」の言葉が使われると国際関係における意味は、国内用語とは違う意味を持つ。 つまり、国際社会では、ある国が他国の資産を自国のものにすることだ。エジプトが英米資産であったスエズ運河を国有化したり、アラブ国が英米資本が支配していた石油生産施設を国有化したことを実例として挙げられる。
 「国有化」nationalizationは「奪う」、「自国のものにする」ということであり、ぎらつく言葉なのだ。  尖閣島の国有化は、当然、世界ではこの意味で受けとめられる。だから、尖閣島は国有化ではなく、「国が地権者からの借地を買い上げた」と言うべきだった。中国の巧みな広報と相まって、世界では日本が中国から取り上げたと思われている。
 こんなことは外務官僚は知らないはずがない。それを敢えて「国有化」の言葉を使ったのは、野田首相に何か目的があってのことだろうか。  私がメディアから得た情報では、野田首相の国連での演説の中で、国が借地を買い上げた、という説明をしなかった。

フォークランド戦争①、人が住む島の例  
 1982年、行き詰まった内政を打開する目的で、アルゼンチン軍部隊がフォークランド島に上陸して国有化を宣言した。四国の2/3の面積に英国系住民3000人が住んでいる。戦争が起きた時に初めてこの島を知り、アルゼンチン沖から500キロの距離にある孤島が、なぜ英国領なのかと首をかしげた。
 自国民保護という大義を掲げた英国は空母と駆逐艦に加えて豪華船クイーン・エリザベスに兵員と戦車を満載してフ島に向かわせた。アメリカ生活中の私はテレビ報道を観て驚いた。なんと大げさなことか、と。結局、両軍合わせ5万4千人の将兵が3ヶ月の戦闘で645人の戦死者が出たが、英国軍が圧勝した。アルゼンチン政府の危険な冒険によって犠牲になった兵士こそ哀れだった。    島がアルゼンチンに支配されれば、住民が追い出される事態を英国政府は許すことができず、世論の支持を得て毅然として武力にものを言わせた。
 かねてから、イベリア半島の先端にあるジブラルタルを英国が領有することに対し、スペイン政府が返還を求めたことがある。ジブラルタルは島ではないが、東京都の狛江市くらいの面積がわずか6.5㎢の都市、人口2万8千人のうち英国系住民が13%で公用語は英語であるが、住民のほとんどはスペイン語を話す。スペインに有利な環境だ。
 それでも英国政府がフォークランド戦争で断固として島と住民を守ったことで、スペインがうかつに武力を行使できない。世界に散らばる英国領有の島に対する抑止力が利く。

中ソ国境紛争②、人が住まない島の例  
 黒竜江(アムール川)の支流にあるいくつかの島をめぐって中国は長年領有権を主張し、ソ連時代から何度もドンパチをやってきた。1969年から国境協定が結ばれる2004年まで両国軍が対峙し、その間戦死者も出た。  両国が和解した国境協定では、これが世界の領土大国かとあきれるくらいみみっちく面積にこだわり、大きい珍宝島(タマンスキー島)にいたっては半分のところに国境線を引いた。人が住まないからこそ分割できたのだ。
 国家も国民も領土にこだわる。「国家の面子が立つ」と「一方の勝者をつくらない」の二つが領土紛争の解決策なのだ。  (このすさまじい国境紛争については、ずいぶん前に本稿で書いたが、どこだったか見つけられない)

次世代にはどうなるか?
 若者諸君、日本は周りをロシア、中国、北朝鮮、韓国に囲まれている。どの国とも問題を抱えている。私はまだ陸続きではないことをましだと思っている。日本がこれらの国に内政問題の道具に使われることは長く続くだろう。
 諸君の時代にも。 ものを自由に言うことも、行動することも日本では許される。政府が情報統制している国の人々ほど諸君は単細胞ではない。中国政府の論理を無視した声明について、諸君たちには、ネットを利用して意見を述べ、世論形成の一翼を担ってほしい。在日の中国人にいつか届くだろう。    (完)


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