2011年6月15日水曜日

#51 将来に不安を感じる諸君へーー女子プロ野球の観戦から

 今の政治にはうんざりしています。「どっちみち政治について考えても逃げ切りセーフの年寄り世代には大した関係がない」という考えが頭をもたげます。しかし、若い諸君は、あきらめたらお終い、です。政治を変えるのは諸君にかかっています。
 政治のごたごたに加えて、小説の執筆も絶不調、憂さ晴らしの気持ちで、先日、6月5日に女子プロ野球を観戦してきました。全力でプレーする選手たちを見ていていろいろ考えました。特に、選手たちの人生についてです。プロ野球は私の専門分野の一つですから、本稿でも「#6 関西の野球市場」、「#7 二軍と独立リーグ」、「#10 女子プロ野球の設立」など5回書いています。
 ここでも関西の読者に限らず、全国の皆さんに向け、視点を変えていくつか書いてみましょう。
 
プロ野球独立リーグとは 
 日本のプロ野球で一軍選手、二軍選手、育成選手は各球団に所属し、全体では日本プロ野球組織NPBの傘下にあります。これに対し、独立リーグはNPBの傘下ではないので、独立と呼ばれるわけです。
 日本で最初の独立リーグは、2005年に元西武の選手で、オリックスの監督を務めた石毛宏典が設立した四国アイランドリーグです。それ以来新球団の出入りがありましたが、現在は四国4県に立地する球団と、三重県の球団からなる5球団で運営されています。
 関西独立リーグは北陸信越のBCリーグに続いて、2009年に設立されました。このリーグは当初の8球団構想が現在は大阪、兵庫、和歌山県の5球団が参加しています。毎年のように撤退があり、年俸を支払えない球団もあります。他の二つのリーグに比べて経営が安定しないのは、NPBプロ野球球団が存在する野球市場の中にに立地しているからでしょう。
 3リーグのほか、各地で独立リーグ設立の動きがあるようですが、経営維持の成算が立ちますかどうか。アマチュアの社会人クラブチームとの混成リーグも考えられます。

楽しませてくれる女子プロ野球リーグ 
 京都市の実業家が2009年に資本金3億円の株式会社として日本女子プロ野球機構を設立、京都アストドリームスと兵庫スイングスマイリーズの2チームが参加して昨年に開幕、今年が2年目のシーズンです。
 前期と後期で各20試合計40試合を週末に主として行い、前期と後期の勝者が対戦して年度優勝を決めます。男の野球と違う点は7イニング制が取られていることです。
 その他、シンデレラシリーズと称して全国各地で巡業しています。
 さて、私が出かけた試合は、京都わかくさ球場で日曜日6時からのナイターでした。わかくさ球場はかつての西京極球場で学生野球や偶にプロ野球の試合も行われる立派な球場です。当日入場券は1500円ですが、65歳以上の年寄りは無料で私もその恩恵を受けました。ネット裏の席に座って周囲を見回すと約1000人の観衆の中にタダの客が目立ちます。昨年の実績では平均入場者数が1500人とか、関西独立リーグの倍になるそうです。
 試合前の練習でも試合でも、やはり女子の非力を感じます。
 投手の球速は推定110キロそこそこで、カーブもよく曲がらず、投げ下ろすフォームの違いからカーブと分かります。打者のスイングは鋭くてフォームは良いのですが、打球はめったに外野を超えることはありません。しかし、守備はうまい。兵庫チームのサードとショートが見せた強肩は大したものでした。
 総じて言えば、高校野球の下位チームの実力でしょうか。
 他方、興行面での努力は素晴らしい。試合前には、特別アドバイザーの太田幸治(甲子園のヒーローで元近鉄投手)が挨拶し、プロ野球オールスターで行われるように、選手一人ひとりずつダイヤモンドに整列してゆき雰囲気を盛り上げます。スタンドには約20人のブラスバンドが演奏します。マスコットガールやチアガールも応援に参加します。
 色とりどりのチラシを出し、動画による同時中継もやっています。スタッフやボランティアの支援も厚い。ビールと弁当で野球観戦する楽しみに変わりはありません。野球に限らず、コンサートでも何でもライブは楽しいものです。
 さて、女子リーグの将来はどうなるのでしょうか?
 選手に年俸200万円を払う資金は続くか?話題性は落ちないか?引退後の選手はどうするのか?各地の女子ソフトボールチームがプロリーグ化されて競合するのではないか?いくつか心配はあります。しかし、大学や高校に女子硬式野球部が増えているので、選手の供給に不安要素はないようです。なんと言っても、女子プロ野球リーグは日本で女子選手の頂点なのです。
 主催者はリーグ規約として、選手たちに試合がない日には職業教育を義務付けしています。選手生活は一時の楽しみであり、引退後の生活についてよく考えています。

私も独立リーグか
 私は生業を持ちながら週末やバケーションの地で執筆業を始めてから25年以上になります。今年から執筆専業に入りましたが、これで小説の執筆がはかどると思ったのは誤算。多忙な仕事の中で時間を見つけて書く副業時代の方が調子良かったのです。いずれ順応すると思います。
 さて、考えてみると、デビュー当時はアメリカの地方都市生活者としてメディアに新鮮味を持たれたのかもしれません。月刊誌二つに一年間の連載企画が取り上げられる、高名な出版社から本の刊行もされる、全国誌にも投稿や寄稿が採用されました。大きな講演にも招かれました。プロ野球で言えば一軍で活躍したのです。
ところが、16年前に帰国してからは打率が下がり、二軍落ち、さらに今は戦力外通告を受けたようなもので、ブログで選手生活を続けています。言わば、ブログは独立リーグになりますか。
 ここで比較をしてみましょう。独立リーグの野球選手と私の共通点と相違点についてです。
 先ず、共通点は、わずかな収入で銭にならない、そしていつかスカウトに注目されたいと思っていること。
 次に、相違点は、私には地道な生活をすれば将来の不安がないことと、年齢制限がないこと。他方、選手たちにはこれからの人生に不安を抱え、25歳の年齢制限があります。
 今年、大学や高校を卒業して志望の職に就けなかった諸君も、独立リーグの選手たちと似通っています。将来不安に悩まされていても、打席に立てばヘストを尽くすほかありません。いかんせん、人生は不安定であることが常態なのですから。
 アメリカ人の友達は、「人生も信仰も不安定の上の安定」と言いました。
 私は言いました。「揺れ動く波頭の上の安定」と。


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