2015年3月25日水曜日

#134 夢は生きがいか、重荷か?――キャリアの積み重ね方

 諸君たちの中には、夢を持ちながら実現に近寄れず、何をしていいのか苦しんでいる人が多いのではないかと思います。夢、希望、目標、欲望、野心は紙一重の違いです。
 そこで、今回は日々の仕事に不満があっても、一日を無駄にすることなく、仕事を積み重ねて夢に近づくことについて述べてみましょう。政治や外交について書くより少しはお役に立てるか。
 私のアドバイスは、若いうちは「一度は夢や欲望にまみれてみよ、悩まされてみよ」ということです。そのうち考える時がくるかもしれません。その時の判断がなかなか難しいのですが、その時はその時です。

私の夢と「常に不安定の上の安定」

  若い頃、生き方の参考になると思い、著名な僧侶や哲学者が書いた本を何冊も読んだ時期があった。今も変わりないが、スポーツ選手や芸能人が「夢を持て」と煽っていた時代。その中で、一人の高僧が「野心を持つな」と説いていた。多くは実社会での体験なしに書いている。
 私は当時から日本は抑制の文化だと思っていたから、野心を戒めていたが、ただ一つ海外生活の目標にこだわりがあった。会社の役員面接で将来の仕事の希望を問われたので、「海外子会社で工場設立に関わりたい」と答えると、「そんなもの今どこにある?」と笑われた。時代が早かったのだ。
  それから10年の間に、会社は次々と海外工場を建設、社内では中小部門で実績を挙げていたが、私の出番はなくなっていた。アメリカの大学院留学を目指すことを決めてから、紆余曲折した後、結局、会社を退職、機会を与えられたアメリカ企業に転職して家族とともに渡米した。
 将来の帰国に備えて6年でアメリカ企業を顧問の形で退職、同じ町に住んだまま、その後日本企業数社で取締役を務め、一社では社長になった。海外生活は実現したが、順調のように見えても人生が分断されることに悩まされた。サラリーマンの安定はなく、いつもリスクがあった。
 「揺れ動く波頭の上の安定」と称していた。

仕事の核とは何か?

  仕事の核とはキャリアを通じて生かせる専門のことだ。つまりすぐに役に立とうが立つまいが専門職を磨くこと。 私の場合は、技術であった。
 私は学生時代から技術者としては超二流になれても一流にはなれないと自覚していた。技術(工学)にはなんでも興味があったが、得意分野がなかった。会社に入ってからは、社命により設計、営業、貿易を担当して純技術職から遠ざかった。渡米後はさらに経営職に広がった。それでも関係するどの技術にも勉強を続けた。私の広い技術観では一流と思っていたが、これはなかなか評価されにくい。評価されるのはずっと後年のことだった。
  余談になるが、私は読書好きで、不安定か安定か分からない生活の中でも英語と日本語の本を読んでいた。今も変わらない。読書がキャリアに役に立つと思ったことはないが、これがはるか後年に作家業を始めてから血となり肉になった。
  諸君、今の仕事をつまらない、目標に役立たないと思っても、全力でベストを尽くすことは基本だ。今の仕事でナンバーワンになる心がけを失わないでほしい。

夢には資金の備えが要る

  運転免許証を例にして話してみよう。
  免許証はただ持っているだけでは宝の持ち腐れだ。もちろん、配達や販売の仕事に必要だし、海外駐在の仕事では車を運転できないと生活に困る。 私がここで言いたいことは、免許証を単に生活の道具として使うのではなく、「核」として発展させることだ。目的は資金をつくることにある。同時に諸君の自制心が問われる。自制心は強い意志と言い換えてもよい。
 タクシー運転手には2種(営業)免許が要る。タクシー運転手は人手不足だから、2種を取らせてくれる会社がある。入社して2種免許の勉強をしながら、当面は洗車など雑用をし、地理を覚える。タクシーの給与では基本給は安いが、実績に応じて仕事給が支払われるから、努力次第で給料を増やせる。
  バス運転手には2種免許に加えて大型免許が要る。観光バスの運転手も人手不足だ。夜間運転があることは過酷であるが、過酷であるからこそ稼げる。タクシー運転手も同じ。目的は稼ぐことにある。
  建設労働者も人手不足であるが、諸君に体力があるか? 狙い目は、人手不足の仕事と、人が避ける過酷な仕事で、頑張れば資金をつくれる。

試験は諸君を強くする  

 私が住む町で市電に乗っていると、海上保安庁、自衛隊、国税庁が人材を募集するチラシが目についた。地方の警察と消防局も人材を求めている。
 例えば、海上保安庁と一口に言っても、さまざまな職種がある。航海士、操縦士、通信士、救急看護士、潜水士、料理人、通訳のほかに、音楽隊、経理、総務の専門職だ。最初は一般職として試験を受けるのだが、先ず試験を受けてみることだ。
 試験というのは、勉強の目標を与えてくれ、しかも最も集中力を高められる。現状打開のために、試験は階段を上るステップであり、働きながらいつでも受験勉強できる。どの職種を希望するかは合格してから考えても遅くない。
 ほかの機関の試験も受けて合格したら、そこで選択すればよい。いっそうのこと片っ端から受験してみてはどうか。

早い夢の実現は後が大変  

 プロスポーツ選手の希望者も多い。勉強より素質がものを言うから、限界の見定めが重要だ。たとえスター選手になれても、引退後の長い人生を考えなくてはならない。
 みんながみんなコーチになれないし、テレビの仕事には幸運が左右する。何よりも問題は、引退後に普通の仕事に就くことが難しいことだろう。平凡な生活には関心を持てないかもしれない。    
 夢は過ぎたことだと割り切れるだろうか。                   (完)


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