2011年2月26日土曜日

ネット月刊誌『言論大阪』#11,3月、2011,  大阪府営の二つのダム――なぜ市民の関心は低いのか?

 大阪府が和泉市に建設中の槙尾川ダムの建設中止を決定した。総事業費128億円の半分は国が負担するとは言え、この府営ダムはすでに58億円がつぎ込まれてきた。本体ダムが着工されているダムが中止される点で全国初のケースだという。地元関係者は、当然のことながら、府が付け替え道路工事に着手後20年も経ってからの中止決定に強く反発している。
 他方、もう一つの府営ダムである安威川ダムは、茨木市北部に建設が進行中であるが、まだダム本体工事には着工されていない。計画から35年、総事業費は槙尾川ダムと一桁違う1370億円で、これまでに用地買収と付帯工事に約840億円が使われた。840億円の数字はにわかに信じがたい。
 槙尾川ダムの建設中止によって安威川ダムがどうなるのか?
 私はこのダムについて10年以上継続して勉強してきた。市民有志が主催する集会にも都合がつく限り出てきた。さらに、2000年の市長選挙には、1)地元経済の振興、2)国文都市建設(次回で詳述)の縮小、3)安威川ダム建設中止の三つの政策を掲げて出馬した。2)と3)については市民の支持が広がらなかった。
 そこで、今日までの建設推進派と反対派の意見をまとめてみたい。

 
〈建設推進派の意見〉
① これまで何十年間も取り組んできて今さら止められない。
 意地、面子、執念など非論理的な要素が支配しているため、反面の考えが頭に入らない。災害への対応も変わり、国の財政も困難に直面しているのに、時代の変化を見ようとしない。常識で、あるいはビジネスの論理で考えれば、30年以上昔の計画を見直ししないことは考えられない。
② 移転してもらった農家に対し、申しわけが立たない。
 これも非論理的な考えだ。多少強要されたにしても、代替地や移転補償がなされて合意された農家も時代の変化を見ない。元の農地で府の土地は農家に無償で貸与する、府営農地として若い世代に農業経験をさせる、など有用な使い方を考えればよい。
③ 他の治水事業よりダムがいちばん安い。
 国交省の比較データには、二つの公正さを欠くことがある。一つは、ダムのコストにすでに使った費用が含まれず、「これから使う費用が安い」のである。他は、ダムを建設しても河川改修費が必要なことを伏せていることだ。 さらに、ダムを建設した後も専門職員を張り付け、施設の維持費もかかる。これまで金を注ぎ込んだと言っても、要らないものは要らないのであり、こんなコストを負う次世代には迷惑なことだ。
④ ここで中止すると国からの助成金が入らない。
 府の財政負担が増えることを建設の理由にするのなら、ダム見直しの時代において制度欠陥と言えよう。要らないダムを中止するのに障害になる制度の見直しをすべきだ。

 
〈建設反対派の意見〉
① ダムを建設しても洪水をすべて防げない。
 天災には上限がないことは認識されるべきで、いつかダムの能力を超える大雨は起きるものだ。事前に警告を出すことにより、住民を避難させることができる台風や大雨の災害は、地震と違う。万が一堤防決壊で損害が出てもダム建設より安い。
 因みに、これは私が長年住んでいたアメリカ政府と州政府の考え方だ。
② 洪水を防ぐには河川改修の方が有効。
 最近の河川工学の研究によって、さまざまな技術が開発されている。国交省のコスト比較では河川改修に土地買収費を大きく取っているが、適用する技術には土地買収費が安くて済むこともあるだろう。
③ ダムは生態系を壊す。
 ダム建設が自然環境に及ぼす影響については研究も実証も進んだ。30年前と言えば、環境意識がまだ低い時代だった。

 最近、武庫川流域委員会委員長の講演を聴く機会があった。この流域市民の民意を高めて武庫川ダムを中止させた運動には、二つの特徴があることをを知った。成功要因と言えることだ。
 一つ目は、新聞記者出身のリーダーも他の会員も特定の政党を絡ませなかったこと。10年間に130回もの会合を持ったというから、その根気には敬服する。
 二つ目は、他の反対運動のように、「反対」や「中止」の言葉を使わずに「武庫川づくり」と呼び、ダムだけではなくダム以外の広いテーマも含めたこと。全国の運動に貴重な参考例になるだろう。

 結びとして、安威川ダムに関して市民運動の障害をまとめてみよう。
 茨木市の市会議員は少数を除いて自民党、民主党、公明党の与党会派すべてがダム建設推進派だ。さらに茨木選挙区選出の3人の府会議員すべてが推進派だ。ダム反対の市民は少数派かもしれないが、議会が民意をこれほどまで代表しているとは思えない。流域市民のダム信仰と、一般市民の無関心がこういう議員を選んできた。
 頼れるのは論理思考の橋下知事の決断しかない。


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