2010年12月13日月曜日

#42 誰にも他人事ではない医療・介護制度――若い世代にも突然降りかかる

 今月、97歳の母が亡くなりました。5年前のある日、近所に独り住まいしていた母は畳の上で転倒して腰を強打して歩けなくなり、病院に運ばれて治療とリハビリを受ける入院生活を始め、その後老人ホームに入りました。それからも肺炎と併発症で再び入院、以来亡くなるまで自宅に帰ることはありませんでした。
 施設探しと申請手続きに振り回され、見舞いに訪問を繰り返すなど大変でしたが、苦しかったことは「苦しい」と人に言えないことでした。なぜなら私の周囲に自宅介護で何倍もの苦労をしている親戚や友達が居るからです。諸君には、苦しい胸の内は友達に言って外に出してほしいと思います。
 諸君には将来の遠い日のことかもしれませんが、誰にも親の病気が生活に降りかかることなのです。今回は私の経験から知った国の制度について書くことにします。

◇ 医療・介護施設の種類
予備知識として利用できる施設を説明してみよう。

《特別養護老人ホーム(特養と呼ばれる)》 
介護保険付きの施設で、3ヶ月の滞在期間制限があり、ここで手厚い介護を受けた後に自宅に戻り、介護ヘルパーの助けを受けながら自立させることが目的。65歳以上で「要介護」の認定が入所資格。しかし、入居者の中には長期滞在の老人ホームに入るために待機している人が少なくない。介護保険のお陰で月額約4万円なので家族の負担にはならない。入所一時金不要。どこでも100~150人の待機者が居る。
《養護老人保健施設(老健と呼ばれる)》
 滞在期間の定めがなく、介護保険付きで月額4~5万円、一時金なし。ここも多数の待機者が入所待ち。
《有料老人ホーム》
 民間経営の老人ホームで月額15~16万円、介護保険適用なし。一時金1500万円(京都市の一例では2500万円)、滞在制限なし。
《療養型病院》
 療養病棟がある病院で、健康保険や老人保険は利くが介護保険なし。期間の定めなし。空き病室がないことが多いので待機期間がある。普通10万円以下であるが、中には衣類やタオルの持ちこみを許さず、リース料を高くして月額13~14万円もかかる病院がある。

 母がたどった経過
 参考までに、母の例に即して振り返ってみよう。世間にはどこにもある。
 ①90歳になっても実家で一人自活にこだわり、老人ホームへの入所を受けつけなかった。週3日介護食を受けても好き嫌いがあり、自分で料理する食事は必ずしも栄養バランスが充分でないため、だんだん体力を失っていくことが見えても自活を主張。(世間ではこれが多い)。
 ② ある日、畳の上で転倒、腰を打って病院に緊急入院。リハビリと、他に腎臓の治療も受けて三カ月期限の規制を超えて退院引き延ばしする間に順番待ちの老健にうまく入れた。
 ③ 老健も三カ月期限を超えて延長してもらった後、特養に入れる幸運。
 ④ これでずっと居れるはずが、3年半経った頃、深夜に肺炎の症状で高熱が出て病院に緊急入院。この時日曜深夜のため救急車が近隣の病院6軒から断られた。(年寄り仲間との会で、みんな急病になるなら日曜を避けよ、とジョークを言った)
 ⑤永住できるはずだった老健ホームから、入院が3ヶ月を超えると戻れないという規約によって退所させられた。
 ⑥病院で10日延長する間にソーシャルワーカーが移転先を探し、療養型病院に入った。病院は治療対象が無くなると出される。3ヶ月後ここで亡くなった。

 こんなに母を転々とさせたが、目も見えない、耳も聞こえない障害者だったからよく分からないせいか、苦にしていないことが救いだった。合掌。
 
政府介護保険と医療保険の制度
 母が介護保険と老人医療保険の手厚い支援を受けられたお陰で、家族の経済的負担は少なくて済んだ。どれだけ国の制度による経費を使ったことか。
 国に感謝する一方で、世界の先進大国の中で唯一の最長寿国になった日本では、老人医療保険の予算が毎年増え、介護保険も赤字で制度が追いついていけない上にまだ施設が不足している現実を考えた。自民党政権時代にそれなりの制度改革を行い、民主党政権も取り組んでいる。人口構成に高齢者がますます増える今、改革は容易ではない。

 アメリカの老人ホーム
 私の顔が金持ちに見えるらしく、母が施設を転々とすることを知った友達から、「有料老人ホームがいちばんええ。なんでもやってくれる」と言われた。どうしても入所先が決まらない時には、実家を担保にして銀行から金を借りて入所金を払うことも考えて一軒だけ見学した。良い施設だった。
かつて住んでいたアメリカの町にある老人ホームを想い出した。
 一つはキリスト教の関係団体が経営する有料老人ホームで、その施設の立派さに驚いた。近隣の州にも知られる有名な施設だ。広大な公園のような敷地に建屋がいくつも並び、病院もある。中には一戸建ての家もある。ここに入れるのは金持ちだけで、財産を拠出しなければならない。子供は相続できる資産が無くなるから、多くは反対するという。
 他は、郊外にある州立老人ホームで、子供は割安なここに入れたがる。自ら望んだ親は別として、無理に入れられた親はたいてい半年で亡くなると看護師の友達が言っていた。
 「老後も金次第」とはこのことだろう。悲しいかな。  (完)


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