2010年8月19日木曜日

ネット月刊誌『言論大阪』#4,8月,2010

  関西3空港問題の戦略を立て直す時
  ――4空港問題として膠着状態を破るしかない――
                 経営評論家 ・岡本 博志

 年度予算制の官庁では、12月の予算申請が行政課題の区切りとなり、予算が認可されてひとまず落着する。
 継続的課題の関西3空港問題についても、次年度一年の予算認可が目標であり、認可されると次の12月までは一段落なのである。今は一段落というより、打開策が見えない膠着状態になっている。
 関西国際空港(関空)は、昨年政府の年度助成金90億円を危うく失いそうになり、大阪府・兵庫県の行政と財界が主に提案した関空、大阪空港(伊丹)、神戸空港の3空港を一体運営するという改革案をまとめたことで、75億円の予算を得た。
 他方、今年6月に国としての改革案を出すと表明していた国交省は、関空と伊丹の二つをセットにして空港の運営権を民間企業に売却するという結論を出した。これで地元関係者も国交省も、先ず一年間は休戦ということになった。予算化対策の域を出ない改革案で当面切り抜け、抜本的改革を先送りにする、これが私の意味する膠着状態だ。 
 果敢に抜本的解決を求めてきた橋下知事も手詰まりになっている。市民もメディアも関心が薄くなった今、どう打開するのか?
 いずれ、関西3空港問題が、成田・羽田問題、地方空港問題とともに全国的テーマとして、月刊誌に取りあげられる機会が来れば、私の15年に及ぶ調査研究の成果を長文の論文で発表したいと思う。ここでは、現時点でのさわりをまとめてみた。

 幻想の空港運営権より八尾空港の売却
 敷地と建屋、それに駐車場などの資産を除いた2空港運営権だけを売却するという国交省は、売却額を6千億円と予測しているが、橋下知事は高々1千億円でしか売れないと発言した。私もそう思う。海外の投資ファンドも乗り出してこないだろう。言うなれば、幻想の改革案みたいなものだ。
 これに対し、私は関西の空港問題は3空港ではなく、八尾空港を含める4空港問題としてとらえることを提唱してきた。八尾空港は国有資産であり、これを民間企業に売却する方が、関空の1兆円を超える有利子負債を軽減するための原資として現実的な方策である。現在、X字に交差する2本の滑走路を持つ八尾空港は、陸上自衛隊のヘリコプター部隊、海上保安庁・消防・警察のヘリコプター航空隊、民間飛行学校、自家用機の基地に使われている。八尾空港の面積は伊丹の1/3であるが、都心に近い立地から大企業の本社、研究所、新製品工場を一ヶ所に集中できるので、売却できる可能性が高い。何より製品を大阪の都心を通らないで関空や大阪港に運べる利点が大きい。

 「伊丹廃港」より「伊丹再活用」
 かつて超党派国会議員のグループが伊丹を、東京が震災に遭った場合に備えて、中央政府の臨時政庁にするという提唱をしていた。しかし、その後は地元の有権者からの反発を気にして運動が盛り上がらなくなっている。
 その背景には、臨時政庁の機能だけでは地元経済の振興につながらないことがある。そこで私が提唱することは、臨時政庁に加えて、八尾空港の機能をそっくり伊丹に移すことと、ヘリポートしか持たない自衛隊伊丹駐屯地の飛行基地として国内外の大災害時に救援基地の機能も加えることにある。既存の建屋には備蓄の収容力が充分だ。
 ここで関西の空港問題にある核心をまとめてみたい。
 第一に、関空の原点は、伊丹の代替空港として建設され、階を上下するだけで国内線と国際線の乗り換えができる24時間空港であった。国内線を伊丹から移すことで国際線の乗り入れも増える。
 第二に、伊丹は四囲が密集した人家で囲まれ、危険であることは昔も今も変わらない。受益者の乗客も、周辺住民にも犠牲者が出なかったことは単に幸運によるものだ。 
 第三に、私の計算では、新幹線が滑走路5本分くらいに相当し、関空の2本と神戸の1本の滑走路で関西の総需要を満たすことができる。数年前に大阪で行われた朝日新聞主催による関空問題のシンポジウムにおいて、井戸兵庫県知事がパネリストの一人として行ったスピーチの中で、都市圏人口が関西圏の1/3しかないシカゴ空港が4本の滑走路を持つことから、将来関西の総需要を満たすには3空港が必要だとする論理を述べた。これは新幹線の輸送力を意図的に無視している。
  
 混乱を次世代に残すなーー結び
 顧みれば、読売新聞神戸支局が関西新空港を考える紙上キャンペーンを、1972年から1年余にわたって週一回の連載を行ってから38年が経った(後に『裁かれる空港』として単行本になった)。ここで書かれた問題は今もほとんど変わらず、騒音と危険性から伊丹廃港を求めた住民運動はどこへ行ったのか?
 ただ今現在、兵庫県の知事と議会が伊丹存続を主張し、対する大阪府の知事と議会は伊丹廃止を求めている。かつて伊丹廃港を主張した地元の大阪国際空港周辺都市対策協議会(11市協)は、今年5月に伊丹存続を求める要請書を前原国交省に提出した。さて、国交省はどこへ行く?
 最後に一言。関空に対する批判は、あまりにもアクセスの不便にとらわれ過ぎている。関空の根幹の機能は西日本のハブ空港として、日本人、外国人を問わず関空からアジアへの路線や国内線に便利に乗りかえしてもらうことだ。従って、関空へのアクセスは二次的な問題であり、世界には空港まで遠い空港はいくつもある。大阪都心から便利な伊丹まで30分なら、関空まではプラス30分に過ぎない。
 大阪都心から関空まで10分で結ぶというリニア鉄道の完成を待って伊丹を廃港するというのでは、次世代にツケを回すことになろう。
                    (完) 


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