2018年5月11日金曜日

#195 トヨタの内部留保――トヨタは下請けに為替差益を返せ

 最近の新聞でトヨタが18兆円の内部留保を貯め込んでいると報道されました。また、今期の利益は最高で2.8兆円と今週の新聞に出ました。他の産業ではとてもこんな利益を出すことはできません。その中には下請けからの搾取によるものがあるでしょう。  私が末端の下請け企業で社長として経営再建に当たったことから、一つの例として実態を書いてみましょう。

 ◇ 下請け企業の実態 
 自動車メーカーの下請けには四重構造がある。それは自動車メーカーに直接納入をする 大手部品メーカーは下請けから部品をセットとして供給され、その下に小部品をセットとして組み立てる中堅メーカーがある。さらに部品を単品として納入する下請けがある。この部品メーカーも一部の加工をさせる末端の下請けを持っている。これは四次下請けだ。 
 二次下請けまでは利益を出しているが、以下の経営は赤字か最小の利益しか出せない。
  私がU社の社長に就任した時、月末になると運転資金が底をつき、毎月地元の信金から緊急融資を受けていた。すでに累積赤字(借金)は資本金の10倍を超えていた。 
 私の最終目標は月末の緊急融資を無くし、新しく経営陣の体制をつくることであった。最初の目標として「持てる技術を生かしていないものと、赤字を変えられないものは新規受注に置き換えて生産を止める」と社員に表明した。営業に自動車部品以外の新規開拓をするようにプレッシャーをかけた。「これ以外に赤字を削減し、給料を上げる手はない」と言った。 
 半年の間、私自ら値下げを要求してきた大手に出向いて、「我が社は要請された値下げについていけない。二ヶ月は現行価格で納入するから、代わりのメーカーを見つけてほしい」と条件を出して認められた。 
 ある日、検査を担当する女性社員が産休を取った。後に成果が出て、月末の緊急融資はなくなった。しかし、まだ月度決算の赤字は続いた。 
 製造部門から代わりの検査工を採用するように要望が出てきたが、電気メーカーに納入してきた単純な加工品で全数検査のコストがかかり、赤字であるこの製品を止めることにした。産休で直ぐには熟練工を雇えないことを理由にし、これから二ヶ月は納入するが、検査なしを条件にした。 営業に対し、代わりの受注を取ってくるように圧力をかけた。

 ◇ 自動車メーカーの御用商人  
 ある日、トヨタ系列の大部品メーカーと取り引きしている専門商社に連れられて二次部品メーカーを訪れた。簡単な電極が埋め込まれた納入部品の中に磁性を帯びている部品が一点見つかったので全品クレームとして返品するというのだ。私は一点だけ代品を納めることで折り合いをつけようとした。ところが、このロットには他にも磁性を帯びているものが含まれる恐れがあるとして全品の代納にこだわった。 
 そこで、不良品と言われる一品を持ち帰って再検査したいと申し出ると、商社担当者は、もう結論だと引き下がらない。私は多少むかついて、「我が社には磁性を出す環境はないので、全品を持ち帰って全品検査をすることではどうですか」と反論した。
  結局、泣く子と買い手には逆らえないと観念した。作り直しで赤字になった。 
 この時、一つの発想を得た。それはこの商社は尾張藩お抱えの御用商人なのだ、と。  
 打ち合わせ前に会議室のテーブルで待機しているところへ部品メーカーの担当者3人が入ってきた。驚いたことに、商社マンはすかさず席を立つと、入り口まで行き、3人の前で上体を45度以上に下げて最敬礼して出迎えた。部下と私はあっけにとられてそのまま座り、テーブルを挟んで名詞交換した。私は営業経験が長いが、ここまで最敬礼する場に出合ったことはなかった。アメリカではたとえクレーム処理の打ち合わせでも両者が軽く握手して挨拶することが普通だから、前述のような最敬礼の場を見たらびっくりするだろう。 
 後日、この商社から営業部長に電話で私が反論したことに対し、文句を言ってきた。営業部長は私に謝罪に行けと言うから、「出張費しかかからないからいくらでも行ってやる。ところで、何か私が間違ったことを言ったと思うか?商売の気遣いとして相手の言い分に沿っても饅頭のあんこである論理はしっかりと理解しろよ」と話した。 
 結局、これ以上謝罪の要求はなかった。取り引きを切られることもなかった。多分彼を諌める上司がいたのかもしれない。 
 しかし、今回は相手の言いなりになるより仕方なかった。

 ◇ 一寸の虫にも五分の魂 
 利益率が薄い製品を新規に取り引きする下請けに外注することにした。自ら出向き社長と交渉して価格では受け入れられた。
  ところが、トヨタから順に降りてきた例の「不良品が出た時には買い手と売り手の間で全損害の賠償について両者で交渉の上で決める」という条文を受け入れられないと言った。私は困ったが、この社員15人くらいの中小企業の社長の気概に感心した。この中小企業は大口の注文を取らない方針だという。 
 結局、発注しなかった。  この会社の社長は、言うなれば「一寸の虫にも五分の魂」の持ち主だった。  

 ◇ 『自動車絶望工場』 
 アメリカでニューヨークに出かけた時、本屋で偶然英語版の『自動車絶望工場』(鎌田慧著、講談社)を見つけて買った。日本メーカーが相次いで現地生産を始めた頃であった。 
 その後、一時帰国した時に日本語の原書を買ってすぐに読んだ。すると、原書ではマルクス主義について書かれているのに、英語版ではすべて省かれていることに気がついた。 
 強い関心が湧いて早速著者に連絡したところ、快く会っていただけた。彼の話によると、すべてアメリカの出版社まかせで英語版の編集稿を読む機会はなかったという。憶測でいろいろと話し合った。要するに、アメリカではマルクスも社会主義も嫌われていて販売阻害になるからだろう。もう一つ挙げれば、アメリカ市場で勢いを増してきたトヨタ社に対して、トヨタのすさまじい日本での生産の実情を暴く悪意もあったかもしれない。  

 ◇ 為替差益の一部を下請けに返せ 
 2008年9月のリーマンショックの後12月から円高が進み、12月には87円/ドルになった。さらに80円を切った。 
 この時、トヨタは全下請けに社内レート85円に対処するために猛烈な値下げ要求をした。一度下げられた価格は元にもどしてもらえず。現在もトヨタ以下の下請けに対する「生かさず殺さず」の政策は続いている。天守閣に居る藩主はどれだけ実態を知っているのだろうか。 
 今、藩主の英断でトヨタの繁栄を賃上げもままならない下請けにも分かち与えることを要望したい。他社も続くだろう。そうすれば景気にプラスになる。 
 レースカー専用のテストコースに18億円もつぎこむ藩主の道楽をやめて名君になってほしい。                (完)    


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